銀魂小説

□VISION
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「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
 どれくらい走ったのだろう。気が付くと、だいぶ遠くまで来ていた。遠くから水音がする。川が近いのだろうか。薄暗い、林の中。
 此処が何処だか分からない。
 近くの木に手をついて、呼吸を整える。
 ・・・今まで、色々なものから逃げてきた。最初から、逃げてばかりの人生だったのかもしれない。
 攘夷戦争終結間際、坂本に宇宙行きを誘われた時も、終結時、桂や高杉を置いて戦場を去った時も、再会した桂に声を掛けられた時も、紅桜の一件の時も。
 今だって・・・目の前の戦から逃げようとしているばかりでなく、問い詰めてきた土方からも、逃げてしまった。
 「結局あれかぁ・・・俺ァ、臆病者って、事だよなぁ・・・。はは、情けね・・・」
 木に背を預け、ズルズルと座り込む。膝を抱えて、其処へ顔を埋めた。
 先生に拾われて・・・“生きる”意味を知った。けれど、もう先生は居ない。
 いっそ、全てから逃げてしまおうか。
 生きる事からも、死ぬ事からも。
 どうせ、今だって生きた屍のような身だ。このまま、身が朽ちるのに任せるのも悪くないのかもしれない。
 (俺1人が死んだくらいじゃ、この世界は揺らいだりしねぇ・・・。後の事ぁ、ヅラ達に任せりゃいいさ・・・)
 そう思い、込み上げる涙を無理矢理押し戻した時、
 「銀時?」
 後ろから声を掛けられ、ハッと立ち上がり、木刀に手を伸ばす。
 「ちょっと待て。俺だ。驚かせたのならすまない」
 見慣れた黒髪。ホッとして、銀時は木刀から手を離す。桂だった。
 「んだ、ヅラかよ・・・」
 「ヅラじゃない桂だ。何だとは随分なご挨拶だな。それよりも、こんな所で何をしている」
別に、と返事をして、銀時はその場に腰掛けた。着物の袖の中で腕を組んだ桂は、呆れた表情でこちらへ歩み寄ってくる。
何時も通りに見えたが・・・体のあちこちに、切り傷を見つけて、銀時は思わず桂から目を逸らした。それに気付いたのか、桂は険しい表情で続ける。
「お前、決めたのか」
「何を」
「これからの事に決まっているだろう。・・・貴様、また逃げるつもりか」
銀時は思わず息を飲む。
さすが・・・というべきか。伊達に幼馴染みではない。お見通しというわけか。
「お前が・・・参戦しようとしなかろうと、俺はどうこう口出しする気はない。だがな、これだけは言っておく。もう、逃げる事は許されんぞ。それは、お前自身、よく分かっているだろう?」
迷っている暇はなかった。
銀時は、ゆっくりと立ち上がる。木刀に手を掛け、一瞬躊躇を見せるが、それを投げ捨てた。
見計らったようなタイミングで、桂は銀時に向かって刀を投げつける。顔は上げていないのに、銀時はそれを見事にキャッチした。
「・・・・・・行くのか?」
「ああ」
そう言って顔を上げた人物の目・・・それは、“白夜叉”そのものだった。
「悪い、ヅラ、あん時の着物、お前まだ持ってる?これじゃ戦いづらくてさ」
「ヅラじゃない桂だ」
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