銀魂小説
□暗君‐愚かなる君主‐
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「辰馬〜♪はよー」
銀色の髪を煌めかせ、銀時がパタパタと駆けてくる。この光景を目にするのは、出逢ってから、もう何度目だろう。
たまたま通った幼稚園が一緒で、家も近いから小中学校も一緒で。果ては高校までもが一緒。
かれこれ14年目になる付き合い。出逢う前より出逢ってからの方が長い付き合いなど、そうそうなかろうと、辰馬本人は思っていた。
「どうした〜?今日テンション低くね?お前がテンション低いと、かえって気持ち悪(わり)ィんだけど」
銀時は苦笑して、カーディガンの袖で辰馬の頬をパフパフと叩く。伸びてしまったのか、敢えてワンサイズ大きなものを選んだのか、はたまた買う際にミスしたのか。全体的にダボッとした感じの、ベージュのカーディガン。白い肌に良く映える。
「そんな事ないきに、おまんは何も心配せんでえぇ」
銀時の髪に手を乗せる。パフ、と軽い音がした。
本人はストレートの憧れているような事を言っていたが、今のままでも充分可愛いと、辰馬は思っていた。銀色の天然パーマ。ふわふわして柔らかくて、まるで雲かあるいは綿飴のようだ。
「そんなら良いけどさ。何かあったら、1人で抱え込むんじゃねーぞ?」
そう言って、ニカッと笑う銀時。
――――――何も、知らないくせに。
「ん?何か言ったか?」
「んにゃ、何でも」
そっか、と言って銀時は走り出す。
「早く行かねぇと遅刻すんぞーっ」
片手を挙げて。無邪気な声で。可愛らしい表情で。
どうしようもなく。
愛おしい。
けれど。
だからこそ。
愛おしいからこそ。
あの声を。瞳を。体温を。
バラバラに打ち砕いて、手に入れたい。
嗚呼いっそ。
――――――壊したい。
「ギリギリセーッフ!」
教室に駆け込んで、銀時は万歳のポーズを取った。既に到着していた桂と高杉が、呆れ顔で溜息を吐いた。高杉の席に集まっていたようだ。
窓際2番目に銀時、その後ろに高杉。1列挟んで隣の3番目に桂。そして1番廊下側の列の最後尾に辰馬。
「お前らなぁ・・・もーちっと計画的に行動出来ねぇのかよ」
「お前に言われたくないですーっ」
「何をーっ」
高杉の言葉に、自分の机に鞄を置いた銀時が舌を出して文句を言う。高杉は銀時にそのまま掴みかかり、桂が慌てて2人を止めようとする。
「止めんか!もうLHRが始まるのだぞ!」
「「レモンの輪切りしてて人差し指切って流血すんの?」」
「貴様らはアホかー!」
――――――1時間目は現国だった。
もう定年間近と思しき男性教師が黒板と教科書を交互に眺めながら問題を書いていく。生徒達は必死にそれを写さんとシャーペンを走らせていた。
チラリ、と辰馬は視線を黒板からずらし、窓の方へ移した。銀時が、焦った表情で黒板とノートを交互に眺めて手を忙しく動かし、時折ペンを離して手首をブラブラさせている。元々書くのが遅い銀時だから、写すのは大変だろう。
トントン、と高杉が銀時の肩を叩いた。銀時はクルッと振り返る。ノートを掲げて、右上の方をペンで指す高杉。クスクスと銀時は笑う。何か悪戯描きでもしたのだろう。
い
や
だ。
自分以外の人間に、
そんな笑顔を見せないで欲しい。
その笑顔を向けられるのは、
自分だけでなくては、
いけないのだ。
やめてくれ。
じゃないと、
お前の事を、
砕いて
壊して
愛して
――――――嗚呼、駄目だ、駄目だそんな事。
抑えろ、抑えろ、抑えろ。
そんな事。
駄目だ、駄目だ駄目なんだ。
嗚呼、それでも。
その笑顔を向けるのは。
自分だけではないといけないのだ。
それならば。
いっそ。
嗚呼いっそ。