銀魂小説
□VISION
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*1章*
万事屋に居て・・・昼寝をしていても、ジャンプを読んでいても、何処からか聞こえてくる爆発音。その度に、通りを行きかう人々はザワザワと声を上げるが、銀時はもういちいち構っている余裕がない。もうほぼ日常茶飯事だ。
・・・もう、無視出来ないところまで、それは来ていた。
第二次攘夷戦争。残っていた攘夷志士達が一気に立ち上がり、再び幕府相手に戦争を始めたのだ。江戸に残っていた子供達は・・・新八や神楽も・・・緊急に、武州の方へ疎開したそうだ。
銀時と同じように活動を停止していた者も、桂のように裏方に回っていた者も、高杉のように過激行動に走っていた者も、坂本のように宇宙へ行っていた者も。
皆揃いに揃って、参戦していた。
もう、銀時も黙っているわけにはいかなかった。
けれど・・・・・・。
「銀時・・・邪魔するぞ」
名前を呼ばれて、ボーッと窓の外を眺めていた銀時は振り返る。シャツとベストだけの制服を着た土方が、ジャケットとスカーフを肩にかけて入ってきた。
「ああ・・・どうしたの、急に」
曖昧に笑って、ソファーに腰掛けるように勧める。
「別に。夜勤明けで疲れてんだ。寝かせろ」
そう言って、隣に腰掛けた銀時の膝に頭を乗せる。驚いて、数瞬赤面した銀時だが、フッと笑って溜息を吐く。
「ウチはホテルじゃないんだけど」
「恋人の家だろ」
そう言われると、何も言い返せない。仕方ないな、と言って土方の髪を撫でた。
『サラッサラの黒髪ストレート』。銀時の憧れで、大好きな髪。
髪だけじゃない。この手も、背中も、肩も、瞳も、肌も、体温も、全てが愛おしかった。
失いたくなかった。
「・・・銀時・・・?」
「ん?」
不意に、手首を掴まれた。壊れ物を扱うような、優しい手つきで。思わず銀時は、髪を撫でる手を止める。
「どうかしたのか?」
「・・・何が?」
急な質問に、首を傾げる銀時。土方は身を起して振り向くと、銀時の唇を半ば無理矢理奪った。
「・・・・・・・!?〜〜〜〜〜〜!!」
銀時は抵抗をするものの、両手首を拘束されて、思う様に動けない。そのままソファーに押し倒された。足をジタバタさせて、何とか抗議すると、一瞬唇は離れるが、また口付けされる。
(何で・・・・・・急に・・・こんな・・・っ)
銀時の目から、思わず涙が零れた。それを合図にするかのように、土方はゆっくり離れる。
ソファーに倒れたまま、肩で息をする銀時を起こして、銀時は彼を優しく抱き締めた。
「乱暴にして悪い・・・。ただ・・・ちょっと・・・お前が、変だったから」
「変・・・?何が・・・俺はいつも通りだよ・・・」
見透かされたような気がして、思わず表情が強張る。
「お前、何か隠してねぇか?」
ドクン、と胸が鳴る。どうして・・・。
「べ、つに?何も隠してなんか・・・。第一、俺ァ何か秘密があっても、そんなホイホイ人に教えるような奴じゃな・・・」
土方の腕から逃れ、ヘラッと笑いながら銀時は手を軽く振った。しかし土方は、苛立ったような表情で、再び銀時の肩を掴み、その目を見据える。
射るような視線を放つ、黒曜石の様な黒い瞳。思わず銀時の背筋に寒気が走った。
思わず呼吸(いき)が止まる。
「何を隠してる。正直に言え」
どうして・・・どうして、どうして、どうして!
「な・・・にも・・・ない・・。何も、ねぇよ!!」
銀時は涙ながらに叫び、土方を突き飛ばした。
そして、そのまま万事屋を飛び出す。
あとに残された土方は身を起こすと、ハァーッと息を吐いた。ポケットの中で、グシャリ、と何かが音を立てた。思い立って、それを取り出す。
山崎から受け取った報告書。受け取った時、一通り目を通して、衝撃を受けた。渡した本人も、平静を装っていたが、瞳の奥は震えていた。
攘夷志士についての報告書。その中の1文。
『通称“白夜叉”なる、攘夷志士最強の男の生死は不明』
『高杉晋助、桂小太郎、坂本辰馬、坂田銀時』
『“白夜叉”なる人物は、銀色の髪を持ち、相当の手練れだったとの事』
『唯一、“白夜叉”なる人物の姿を撮影したと思われる写真を添付しておきます』
その書類の右上に、クリップで留められた写真・・・。
・・・・・・土方は愕然とした。
決定じゃねぇか。
白い羽織を身に纏い、白い布を額に巻き、真っ赤な返り血を浴びながら天人を切り倒していく侍の姿。鮮やかなる銀色の髪が、曇天に映えた。
もう言い逃れは出来ない。
土方は頭を抱えた。自然と、体が小刻みに震えているのが分かった。
・・・弾かれたように、土方は立ち上がり、万事屋を後にした。