Legend of Zelda

□希望
1ページ/4ページ

パカ、パカと蹄の乾いた音が響く。

城までの道のりは美しい景色が続き、咲き乱れる花々の上をチョウが舞っていた。

しかし、何とも平和な空気が漂っている中で、私はめちゃくちゃ緊張していた。



「どうした。やけに口が重たいようだが」

「そ、そんなことないですよ?」

「見たところ賢者のようには見えぬが、姫に会いたいというのは本当か」

「うへぇ!? き、聞こえてましたか?」

「あれだけデカい声で喚いていればな」



徐々に見えてくる城の壁を見ながら、私は曖昧にごまかすことにした。

姫への伝言を、この男に言うのは危険な気がしたのだ。



「そりゃあ、ゼルダ姫の美しさは城下町でも評判ですから、お会いしたいと思う人は多いでしょう。それこそ、凡人から賢者に至るまで」

「ふん。口のうまいことだ」


ガノンドロフは短く鼻を鳴らした。


「俺が賢者を連れてきたと知ったら、姫はさぞかし驚かれると思ったのだがな」

「……?」

「貴様、もしも賢者でないと言うのなら、城に入っても意味はないぞ。ここは遊び半分で来るような場所ではない」

「……う、」



暗に、賢者でないならば帰れと言っているのだろう。

たしかに、ここで賢者である身を偽れば、私はただの一般人として城からつまみ出されるに違いない。

しかし、この男にすべてを話すのは、どうにも気が進まなかった。



(だいたい賢者の存在自体が信じられていないようだし、このままじゃ私、ただの変質者だと思われかねないよなぁ)


やっぱり、こっそり侵入した方が良かったのかもしれない。

そんなことを考えながら後悔していたら、ガノンドロフは痺れを切らしたのか、大きなため息を吐いた。


「……まぁいい。どうしても城を見学したいと言うならば、貴様を小姓として扱ってやろう。連れだと言えば王も疑わない筈だ」

「え? いいんですか!?」


振り向いて礼を言えば、ガノンドロフは眉をしかめて「気が済んだら帰れ」と言った。


めちゃくちゃ怖い顔だけど、もしかして心は優しい人なのかな。


やはり私の勘違いだったのだろうか。



(それにしてもギャップありすぎじゃね?)



そのあいだも黒馬は悠々と蹄を進め、私とガノンドロフはとうとう城の正門までたどりついた。



「ガノンドロフ様。ハイラル王が謁見の間でお待ちです」


着いて早々に、部下と思える兵士たちがガノンドロフに一礼する。


「待たせておけ。俺は少々やらねばならんことがある」

「はっ。して、その女性は……?」

「俺の連れだ」


馬から降ろしてもらい、私はガノンドロフのあとを追いかける形で城へ入った。

外壁と同じく、白を基調にした城内は、明るくて美しかった。真っ赤なふかふかの絨毯が足に気持ちいい。


(そう言えば、この世界にきてから土とか草の上しか歩いてなかったもんね)


それにしても、絵に描いたようなお城だ。

感動しながら歩いていると、ガノンドロフは大きな廊下から脇にそれて、さらに2階へとのぼっていく。



「あの、どちらへ行かれるんですか」


そう訊ねれば、ガノンドロフは「俺の執務室だ」と答えた。


「あー……そうですか。じゃあ私は、お城の見学をしてこようかなー……」

「勝手にウロつくな」

「……はい」



威圧感半端ないぃい!
逆らえないオーラとは、この事を言うのだろう。

やがて廊下の突き当たりの部屋につくと、促されて中へ入った。部屋は思ったより普通で、シンプルだった。


中を見回していると、背後でばたんと音がした。



「さて。本当のことを話して貰おうか」


目を光らせたガノンドロフが、後ろ手に扉を閉めていた。


「えーと、ガノンドロフ様?仰っている意味がよく分からないのですが」

「俺に隠し事がまかり通るとでも思ったか、古の賢者よ」



うわぁ。うわぁ……!!

なんか、やっぱり怖い人だった!!

血が逆流したように、全身に鳥肌が立つ。



(いや、待て待て。むしろ逆に考えよう)

ガノンドロフがこれだけ賢者に執着するということは、彼が何か知っているからなのだろう。



「わ、私が古の賢者だとしたら、どうするつもりだ」


とりあえず時間を稼がなければ。

勇気を振り絞って答えると、ガノンドロフは目を細める。


「ふん、そうだな。まずは賢者の力とやらがいかほどのものなのか、拷問にかけてでも知り尽くす必要があるな」

「ごっ!?」



拷問!?

いまサラッと怖いこと言った!?


いよいよ身の危険を感じて警戒する私に、ガノンドロフは一歩一歩近づいてくる。



「俺は力が欲しい。圧倒的な力をもってすれば、国など無用。何百という民を統率し、新しい時代を切り開くことも可能だ…!」


ついに壁際まで追い詰められた私は、顎に手を添えられ、思わず目を瞑った。



「ユウ。まず手始めに、貴様の賢者の力、俺が貰い受ける!!」


(ああ、殺される!!)




「何をしているのですか、ガノンドロフ」



刹那、凜とした声が木霊した。

ガノンドロフの肩がピクリと動き、背後の扉へと振り返る。拘束から解放された私は、急いで壁際から離れた。

扉の脇には、色の白い少女が立っていた。
ヴェールをかぶり、やわらかそうな生地を身にまとっている。



「これはこれは、麗しのゼルダ姫様」



慇懃に礼をしてみせるガノンドロフ。



「何か御用がおありかな?」


(あの子が……ゼルダ姫?)



思わず少女をまじまじと見てしまう。


ゼルダは私に小さく笑いかけると、ガノンドロフを一瞥して頷いた。



「父上が貴方を待ちわびています。すぐに謁見の間へいらして下さい」


有無を言わせぬ雰囲気に、ガノンドロフも逆らわないことにしたのか肩をすくめた。



「承知。すぐに参ろう」



マントをばさりと翻したガノンドロフは、最後にもう一度私を見ると、足音高く部屋を出ていってしまった。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ