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□Il bambino di cielo.〜大空の子〜
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 春の暖かな風が吹き渡る、よく晴れた土曜日の午後。
 並盛町にある沢田家の綱吉の部屋に、一人の男がいた。

「で……できた……」

 丸い影が部屋の中でそう呟く。
 手に持った紫色のバズーカを見て、口元に笑みを浮かべていた。



「はぁ、なんで俺が日曜日にガキの面倒見なきゃなんないんだよ……」

 やわらかそうな茶色くふさふさした髪が風に揺れている。
 27のロゴの入った水色のパーカーとベージュのズボンを身に着けた少年は、誰に向けてでもなく、一人ぼやいていた。

 うららかな日曜日に、その少年、沢田綱吉はリボーンとランボとイーピンを連れて、並盛町にある公園に来ていた。
「仕方ねぇだろ。ママンはお前と違って家事で忙しいんだぞ。いつも何もしてねぇんだから、日曜日くらいママンを助けると思ってガキの面倒くらい見るんだな」
 ベンチに座った綱吉のすぐ隣から、そんな言葉が聞こえた。
 綱吉の独り言に答えたのは、全身真っ黒なスーツに身を包み、帽子にカメレオンのレオンを乗せた赤ん坊、リボーンだった。
「うっ……ま、まあ、そうなんだけど……」
 その通りなので綱吉は何も言えない。
 綱吉は抵抗するのを諦めたように肩をすくめた。
 そして無邪気に遊んでいる子供たちに目を向ける。
 一人は牛柄の気ぐるみを着て綿菓子のような髪の5歳の男の子、ランボ。
 もう一人は中国服を着て卵形の頭の頂点に三つ編みを垂らしている女の子、イーピンである。
 2人は元気に追いかけっこをしていた。

「おーい、お前らあんまり遠いところまで行くんじゃないぞー」
 放っておくとどこまでも行きかねない2人に、そう注意すると再びリボーンに目を戻し、ちょっと冗談を言ってみる。
「お前は遊んでこないのか?」
「俺をガキ扱いするとはいい度胸だな……ツナ」
 綱吉のその一言にリボーンは口の端をにいっと押し上げて笑うと、懐から慣れた手つきで拳銃を取り出した。
 そして静かに銃口を綱吉に向ける。
「わ、わかった! 悪かったよっ、ガキ扱いして! 冗談だからっ」
 ひいっと赤ん坊に怯え、謝る少年の姿は傍目から見れば奇妙な光景だった。


 しばらくして、ランボがイーピンとの遊びに飽きたのかベンチにいる綱吉のもとにやって来た。
 その後からイーピンもやって来る。
「ツナ〜、飽きちゃった。なんかちょうだい」
 そうせがむランボに、仕方ないなぁ、と言いながら、綱吉は2人のおやつにと母に持たされた飴をランボとイーピンにあげる。
「おぉ〜!ブドウ飴だ!」
「ツナサン、アリガト」
「イーピンは偉いな、ちゃんとお礼が言えて。ランボもちゃんとお礼を言えるようにならなきゃダメなんだぞ」
 綱吉は2人にそう言った。

 ――本当に俺……日曜日のパパみたいになってる……。

 そんな自分に情けなくなって、綱吉はため息を吐く。
「ランボさんはそんなこと言わなくていいんだもんね〜」
 と反抗しながら、ランボは綱吉の横で気持ちよさそうに寝ているリボーンに気がついた。
 するとランボは何か面白い事を思いついたのか、悪いことを企んだような顔をする。
「リボーン! おれっちと勝負しろ!」
 寝ているリボーンにそう言うと、ブロッコリーのような形をしたもじゃもじゃの頭の中から、ひょいっと手榴弾を取り出す。
 だが、リボーンは鼻風船を膨らませながら寝たままで、全く反応しない。
「おい、ランボ! こんな所に来てまでやめろよ!」
「ランボ、ダメ」
 綱吉とイーピンが叱るも、ランボは「知らないもんね〜」と取り合おうとしない。

「食らえ〜っ」

 ランボが手に持っていた手榴弾をリボーンに向かって投げつける。
 ぱちん、とリボーンの鼻風船が割れた。
 と同時に「うぜぇ」の一言とリボーンの蹴りが、ランボの投げた手榴弾ごとランボに唸りをあげてヒットした。
 そのままランボは蹴られた方向に真っ直ぐ飛んでいく。
 その後をイーピンが追いかけていった。


「ふん」
「あーあ……」
 リボーンは鼻を鳴らし、綱吉は溜め息を吐いた。


「君達何してるの?」


 突然、綱吉達の背後から声がした。
 その声を聞いて綱吉が全身氷漬けにされたかのように固まっていると、その声の主のほうからこちら側にやって来た。
「ひ、ヒバリさん……」
 綱吉はびくびくしながらも、やっとそれだけを言うことができた。
 そう呼ばれたのは、いつもの学ランではなく青いTシャツに黒いズボンをはいた漆黒の髪の少年、雲雀恭弥だった。
 肩にはいつものように黄色い小鳥をとまらせている。
「何群れてるの?」
「む、む、群れてませんよ!」
 その雲雀の一言に、綱吉は手をぶんぶんと顔の前で振りながら慌てて否定した。
 緊張した雰囲気の中、隣から声が聞こえてきた。
「ちゃおっス、雲雀」
「やあ、赤ん坊。また勝負しようよ」
「また今度な」
 完全に怯えている綱吉をよそに、のんきに会話をするリボーンと雲雀。

「ヒバリさん……日曜日は学ランじゃないんだ……」

 注意が自分から外れたので、少し落ち着いた綱吉はそう呟いた。
「何、悪い?」
 その呟きが聞こえたらしい。
 雲雀が綱吉の方を向いて訊いてきた。
「い、いえ! ただ珍しいなぁ、と思って」
 そう言って綱吉は苦笑いを浮かべた。
 本当に珍しかったので、綱吉はまだ雲雀を眺めている。

「……あんまり見てると、咬み殺すよ」

 少しイラついてきたのか、雲雀がむすっと
した顔で言った。
「はいっ、分かりましたっ」
 綱吉は再び震えながらそれだけ言って、視線を雲雀から離した。
 そのやりとりを見ていて、リボーンは何かいいことを思いついたのか、
「先に帰ってるぞ」
 と言って、すたすたと綱吉達から離れていく。
「えっ、リボーン帰っちゃうの?」
 情けなく震えた声を出しながら綱吉がリボーンに声をかける。

 ――いい機会だ。守護者と親睦を深めておくんだな、ツナ。

「じゃあな、雲雀」
「またね、赤ん坊」
 去り際にそう言い残したリボーンに雲雀は挨拶を返して、リボーンは帰っていった。


「が・ま・ん……」
 よく聞くおなじみの台詞が、綱吉達の足元から聞こえてきた。
 ふと綱吉が自分の足元を見てみると、そこには案の定泣きべそをかき、綱吉のズボンのすそを握ったランボがいた。
 なんとか立ち直ってここに戻ってきたらしい。

「ぐぴゃあああああ」

 ここまで泣くのを我慢していたようだが、やはり限界だったようで泣き出してしまった。
 そして例によってスポンジのような黒い頭から、紫色の10年バズーカを取り出した。

 が、いつもと違ったのはそのバズーカの向きが逆さまだった事だ。

 それに気づかずにランボは10年バズーカの引き金を引いた。
 当然、その弾はランボには当たるはずもない。
 弾はランボと向かい合うように立っていた綱吉に向かって飛んでいった。
「え……えっ!」
 驚いて綱吉が声を上げるも、気づいた時にはもう避ける暇はなかった。

 ボンッ!

 そして綱吉に10年バズーカが命中し、綱吉は煙に包まれた。


 本来ならば、10年バズーカはその時から10年後の自分と5分間入れ替わるものである。
 次の瞬間、現れたのは10年後の大人びた綱吉……ではなく、きょとんとした4歳ほどの幼い綱吉だった。


 間の抜けた空気がその場に流れる。
「!」
 さすがの雲雀も予想外の光景に驚いたようで、珍しく固まっている。
「あらら〜? ツナ、赤ちゃんになっちゃったのかしら〜?」
 その原因の張本人であるランボは機嫌を直していた。
 そして驚く様子もなく、からかうようにそう言いながら、ペタンと座りこんでいる幼い綱吉の周りをくるくると回り始めた。
 オレンジ色のパーカーと水色の半ズボンという出で立ちの綱吉は、状況を理解しておらず、相変わらずきょとんとしたままである。

 しばらくすると、ランボは飽きたらしくリボーンを探してどこかへ行ってしまった。


 取り残されたのは固まっている雲雀と、小さくあどけない綱吉だけである。
 しばらく沈黙が流れる。
 やがて綱吉がきょろきょろと周りをま見回し、見知った顔がないのを不安に思ったのか、ぐずり始めてしまった。
 雲雀が迷惑そうに眉をひそめると、その表情を見た綱吉は怖くなったのかさらに泣き出してしまった。
 その重い雰囲気を察してか、雲雀の肩に乗っていたヒバードが飛び立ち、泣きじゃくっている綱吉の周りを飛び始めた。


「みーどーりたなーびくーなーみーもーりーのー……」


 旋回しながら雲雀の愛する並盛中校歌を歌い始める。
 その甲高い声に綱吉の注意が引き付けられ、そして泣き止んだ。
 自分の周りを歌いながら旋回する黄色い小さな小鳥を目で追いかけはじめた。
「きゃっ、きゃっ」
 と、やがて綱吉は子供特有の、高くかわいらしい声で笑い出した。

 歌い終わったヒバードは、軽やかに雲雀の肩に舞い降りる。
 ヒバードを目で追っていた綱吉は自然とそのとまった先、立ったままの雲雀の顔を見た。
 一瞬、先ほどの怖さを思い出したように表情を曇らせたが、次の瞬間には雲雀にもぎこちないがやわらかい笑顔を見せた。
 雲雀はそんな綱吉のコロコロ変わる表情を見て面白く思ったのか、わずかにふっとその顔に笑みを浮かべた。
 綱吉はそれを見逃さなかった。
 綱吉は気を許したように、さらに人懐っこい満面の笑顔を雲雀に見せた。


「ぼく、つなよし」
 突然、綱吉は自己紹介を始めた。
「お兄ちゃんは、だあれ?」
「僕? 僕は……恭弥」
 質問をしてきたので、自分の目線よりだいぶ低いところにある綱吉の目線に合わせるように雲雀は公園の芝生に腰を下ろした。
 幼い子供にフルネームで言っても仕方ないと思った雲雀は、なぜか苗字ではなく名前を名乗っていた。
「恭弥お兄ちゃん。……この鳥さんは?」
「この子はヒバード」
 綱吉は子供らしく目をキラキラさせながら、次々と質問をしてくる。
 ふと綱吉は疑問に思ったことを口にした。
「お兄ちゃんはここで何してるの?」
 子供にこんなことを言っても分からないだろう、と思ったがうまい言い方が思いつかなかった雲雀は、そのまま言うことにした。 
「僕はこの並盛町の見回りをしてるんだ」
「ふうん?」
 案の定、雲雀の答えがよく分からなかった綱吉は、大きな目を輝かせた不思議そうな表情でこちらを見つめている。
 やがて、さほど気にならなかったのか、綱吉は次の言葉をつむぎ出すために口を開く。
 その言葉を聞いて雲雀は少し目を見開いた。
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