※これの続き。 (ゼロアイ←失恋エックスで不健全ネタ)
◆The Happy Prince V
「明日は、アイリスと一緒に出掛ける」 「そう」 「なにか買い物をしたいらしい」 「へえ」 「おまえも何か要る物あるか、ついでに買ってくるぞ」 「べつに」
「なんだ、すねてるのか」 「すねてないッ」 「そういじけるな。おまえのことも好きだぜ?」
あっけなく紡がれた言葉に、エックスは小さく肩を落とした。
「‥‥気やすく言わないでくれ」 「べつに、気やすく言った覚えはない」 「‥‥‥」
ああ。そんなふうに言うから、ますます勘違いしたくなってしまうじゃないか。本当はそうではないと、とっくに分かっているのに。
「そうじゃない。おれが言っているのは、そういう好きじゃない」 「何故だ。俺は、おまえもあいつも同じくらい大切に思っている」
ゼロは、本当に同じくらい大切に思っている顔でそう言った。わかっていながら、エックスは尚も問いかける。
「けど、もし、おれとアイリスが同時に溺[おぼ]れていたら、どうする?」
きみのボートには、あと一人しか乗れないんだ。そうしたら、アイリスのほうを助けるだろう?
「そういうことさ」
自嘲ぎみに付け加え、エックスは視線を逸らした。
たしかにアイリスを助けるのは間違いなかったので、ゼロは黙っていた。 しばらく無言で睨み合う。 腹の探り合いをしても仕方がないと、先に折れたのはゼロだった。
「今日はもう帰る」 「そうしてくれ」
エックスは力無く同意した。ゼロが帰るのは久し振りだなと、現実逃避で考えた。
「明日。夜には戻る」 「部屋、開けといたほうがいいかい」 「要らん。一人だ」
ゼロは、長い金髪をひるがえして扉へと向かった。 いったん帰りかけたが、扉の前で立ち止まると、振り返らないで言った。
「先刻[さっき]の質問の答えだけどな」 「?」 「俺ならば、こうする。──『アイリスとおまえをボートに乗せて』、俺は一人でおぼれ死ぬ」 「───」
わかったか、と吐き捨てて、ゼロは扉を蹴立てるように出ていった。 錠の咬む音がドシャンと響く。あとには、茫然自失のエックスだけが取り残された。 ア然とした顔で、しばらく扉を見つめたまま身動きもできない。
「そんなの、反則だよ‥‥」
ようやっと零された泣き笑いじみた呟きに、答える声はなかった。
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