【 世界の中心で、愛とパスタとSOSを叫ぶ 】

□【世界旅行4周目:ゴールドが足りないんです】
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金槌(かなづち)片手に、黙々と鳩時計を作り続けるルートヴィッヒ。

トントン、カンカンと、単調な音とリズムだけが、仕事部屋に響いていた。



独「あ〜〜〜、毎日毎日、寝ても覚めても鳩時計作って鳩時計作って、フランシスに金送って鳩時計作って―」



ああ!

どうにかなってしまいそうだ!


眉間に皺を寄せ、そう心で叫ぶなか、ふと、彼の働く手が止まる。


頭に浮かんだのは、“イタリア”である女性のフェリシアだった。

捕虜として囚(とら)われの身となっていた彼女だったが、今はもう、ココにはいない…。



独「しかし、この戦いが終わったことで、アイツとおさらば出来ただけでも、とても気が楽だな」



…、まぁ、少し寂しい気もするが………。

あぁ、そう言えば、勝手に送り返してしまったことを、彼女は悲しんでいないだろうか…。


柄にもなくそんな事を思ってしまったルートヴィッヒは、ハッとして、首を何度も横に振った。



独「な、何を考えているんだオレは…!
  送り返して正解だったではないか!
  あんな変な奴の子守りなんぞ、真っ平ごめんだ!」



捕虜だというのに呑気に歌うし、何かあるとすぐに泣く!

どういう訳か、敵[オレ]に笑顔で話しかけてきたが、アレは兵士としての自覚が足りん!


確かに、一緒にいて「楽しい」とは思ったが…。


シャツ1枚でうろうろされた時は、本当に心臓が止まるかと思ったんだぞ///!?

挙句の果てには、消灯時間に「一緒に寝ないの?」なんて誘われてしまうし(※如何わしい意味ではありません)///!

ソコまで面倒見切れるか、心臓も胃ももたん…///!


いや、全く本当に1人で騒がしい奴だった。

静寂なんて、殆(ほとん)どなかったくらいだ。


…そうだ、やっと静かになったんだ。

これで落ち着いて過ごせる。


そう…この1人の時間が、オレにとっての至福の時…。


―なんて思ってる時だった。



伊「ルート〜〜〜!
  仕事ちょうだい!
  私ん家[ち]、びんぼーになっちゃったー!」

独「Σうぉあああぁぁーーー!!」



何処からともなく、ぴょこんと仕事場に現れたフェリシア。

彼女のいきなりの登場に、思わずルートヴィッヒは変な声を上げた。



独「な、ななな何でお前がココにいるんだ!?」

伊「ヴェ?
  ココで仕事貰えないかなぁって思って―」



そういう意味じゃない

ルートヴィッヒは、そう叫びたくなった。


改めてフェリシアを見てみると、彼女は、作業しやすいような仕事服を着ていた。

軍服とはまた違う可愛らしさがあって、無意識に彼女へと視線を向けてしまう…。

その時、パチリと、フェリシアの目と目が合ってしまい、ドキリとするルートヴィッヒ。

カァッと、頬が熱くなっていくのを感じた彼は、その姿を見られたくないと思い、フェリシアに背を向けさせ、彼女をドアへと押しやった。



独「と、兎に角(とにかく)///!
  もう二度と来るなよ!
  コッチもフランシスのバカへ払う金を稼ぐのに必死なんだ!」



そんな事を自分で言っておきながら、チクリとルートヴィッヒの胸が痛んだ。

「本当に来なくなってしまったらどうしよう」と、その時、彼は思ったのだ。

全く不器用な男である…。


しかし、幸か不幸か、フェリシアは肩を押してくるルートヴィッヒにしがみついてきた。



伊「ま…待ってよ、話聞いて!
  私ん家[ち]、もっと大変なの。
  みんな、働く場所もパンもなくて。
  本当に給料が低くても、どんなヒドイことでも何でもするよ!
  少しでもお金が手に入ればそれで良いから、お願い、私に仕事くれない!?」

独「フェリシア…」



じわりと涙を浮かべながら、「お願い…!」と、もう一度頭を下げてきたフェリシア。

彼女のその必死に懇願する姿を見てしまえば、一度は突き返そうとしたルートヴィッヒも、手を差し伸ばさずにはいられなかった。



独「………分かった、お前の力になろう」

伊「ヴェ、本当っ!?」

独「あぁ、だからもう泣くな…」



今にも溢れ出そうなフェリシアの涙の粒を、人差し指でスッと拭(ぬぐ)ってやるルートヴィッヒ。

安心したのか、彼女はへにゃりと柔らかく笑った。



伊「ヴェ〜、ルートは優しいね、ありがとう」

独「うっ…べ、別に優しくなどない…///」

伊「えぇ〜、優しいよー!
  私、ルートのそういう優しいところ好き!」

独「なっ…か、軽々しくそんな事を言うな///!」

伊「Σうヴェぇ!?
  ごめんなさああぁぁぁあい!」



せっかく涙が止まったのに、また半泣き状態になるフェリシア。

ルートヴィッヒが、何故(なぜ)そのように怒鳴ったのかを、彼女は知る由(よし)もなかったのだった…。


まぁ、何はともあれ、彼女は、これから暫(しばら)くドイツでお世話になるようだ。





◆ドイツへ出稼ぎ



兄ちゃんへ.

私、ルートの家でお札作る仕事始めたよ。
聞いて驚かないでよ。
私の給料は9億マルクです。
あっ、でも卵が32億マルクです。
びっくりだよね〜!!




?「あのバカ妹………『ルート』って、誰だ…?」




※【ハイパーインフレ】
 そんな訳で、手っ取り早くお金返そうと大量のマルクを刷っちゃったドイツでは、当然だけど貨幣価格が大暴落。
 酷い時は、1ヶ月で物価が約300倍に。
 酒飲みに行くと、1杯目と2杯目で値段が変わってたとか凄過ぎる。



(NextPage:後書き)

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