過去のWeb拍手ストーリー

□baby baby baby〜6 オマケA
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※このお話は、baby6オマケ@のオマケになっております。
前作をご覧になっていない方は、『過去のWeb拍手ストーリー』の中の@を先にお読みくださいm(_ _)m




レイシャの話を聞いた翌日、シリウス号はアーリア王国に向けて出発した。

波も風も穏やかで、進路が安定した頃、舵から離れて一息つくシンの隣で、ナギも一服していた。

二人は並んで手摺にもたれ掛かり、話している。
今朝の出来事の詳細を、ナギがシンに説明しているのだ。


ナギ「…ってワケだ。朝っぱらから驚いた」


はぁ…と溜め息混じりにナギが呟く。


「つまりハヤテがお前のベッドに寝てたのは、アイツが寝ぼけて潜り込んできたからって事か?」


ナギの横に立つシンが、風に吹かれながら聞いた。


「そうとしか考えられねぇだろ。しかし、あいつにあんな寝ぼけ癖があるとはな…」


ナギはバンダナを外し、賑やかな甲板を見下ろす。
甲板では、ハヤテとトワと○○が、赤ん坊と遊んで盛り上がっていた。


***


その日の朝、朝食前になってもハヤテは起きてこなかった。

天候や風向きなどを確認してから食堂に入ったシンは、料理を運んでいるナギに、ハヤテを起こして来るよう頼まれた。

「ったく、世話が焼けるな…」

シンは入って来たばかりのドアを再びくぐると、船室に向かって歩き出す。
すると、ナギがドアから顔を出して言ってきた。


「シン。俺の部屋だ」

「あ?部屋?」


突然意味の分からないことを言われ、シンは振り返ってナギを見る。


「なんだ?何か取って来て欲しいものでもあるのか?」

「いや、違う。ハヤテは俺の部屋で寝てる」

「お前の部屋で?」

「ああ」

「…」

「…」


一瞬の沈黙が辺りを包む。


「なんでアイツがお前の部屋で寝てるんだ?」

「俺が聞きてぇよ」

「どうやったらそんな状況になるんだよ」

「話は後だ。とりあえずアイツを起こして来い」


それだけ言うと、ナギは食堂に引っ込んだ。

シンはワケが分からぬまま、とりあえずナギの部屋に向かった。


―――


ナギの部屋のベッドで、確かにハヤテは眠っていた。

あどけない少年のような顔をして眠るハヤテをしばし見ながら、シンは彼がここにいる理由を考えた。

確かに日頃から、ナギとハヤテは兄弟のように仲がいい。
ハヤテがナギをとても尊敬し、兄のように慕っているのだ。


ナギも無愛想ではあるが、何気にハヤテを可愛がっているようで、何だかんだ言って世話を焼いたりしている。

しかし、いくら仲がいいとはいえ、シンの記憶の限りでは、二人が一緒に寝ることはなかったように思う。
むしろ、そんな事があったら若干引く。

しかし今、ハヤテはナギのベッドでスヤスヤ眠り、ちゃっかり毛布にくるまっている。

ナギは何故ハヤテが自分の部屋で寝ているのか分からないようだったが…。

シンは腕組みしてしばらく考えた後、とりあえず起こすか…と、いきなりハヤテの頭をひっぱたいた。


「!?」


突然頭に走った激痛で飛び起きたハヤテは、一瞬何が起こったのか分からず、テンパってキョロキョロしている。


「朝食だ。早く来い」

シンが言うと、ハヤテはシンの方を見て、ようやく状況を理解したようだった。


「シン!お前今ひっぱたいただろ!」

「口で何か言って起こすより、叩いた方が早いと思ってな」

「口で言えよ!何でお前はそう手が先に出るんだよ!」

「人の事言えないだろ。っていうかお前、すごい寝グセだな」

「う、うるせー!」


シンに指摘されて、慌てて髪の毛を押さえたハヤテは、ピタッと動きを止めて緑色の毛布を見つめた。


「…?」


自分の毛布とは違う色だと気付いたようだ。
ハヤテは髪の毛を押さえた状態で固まっていた。


「ナギの部屋だ」


ハヤテが混乱しているようだったので、シンが教えてやる。

ハヤテは、一瞬きょとんとしていたが、「あ!」と何かを思い出したように顔を上げ、
「やべ…あのまま寝ちまったんだ…;」
と、少し焦ったように呟いた。


「ナ、ナギ兄は?」

「朝食の準備をしてるに決まってるだろ。お前を起こすよう頼まれたんだよ」

「…ナギ兄、なんか言ってた?」

「別に。お前が何故ここで寝ているのかは分からないようだったけどな」


シンの言葉を聞いたハヤテは、はー…と疲れたように長い溜め息を吐いた。


「…んだよ、やっぱ憶えてねーのかよ…」


その言葉で、勘のいいシンはなんとなく察知する。


(あぁ、そういうことか)


どうやらハヤテは、寝ぼけたナギの洗礼を受けたようだ。

しかし同じ船に乗っている以上、避けては通れぬ道。

とりあえず、無差別なナギの攻撃から自力で生還できたのは、成長したと言えるだろう。

理由が分かって一段落したところで、シンがニヤリと笑って言った。


「…やっぱりガキだな、お前」

「は?」


何故いきなり子ども扱いされたのか分からず、ハヤテはポカンとする。

シンはハヤテに歩み寄ると、寝グセのついた金髪をワサワサ撫でて言った。


「怖い夢を見て飛び起きて、心細くなったからナギのベッドに潜り込んだんだろ。夢に怯えて一緒に寝て貰うなんて、本当にガキだな」

「ばっ…違げーよ!;」


からかわれていると知らないハヤテは、シンの手を振り払い、真っ赤になって反論してきた。


「ナギ兄がまた寝ぼけて、鎖鎌振り回してきたんだよ!で、散々暴れまくった後に廊下で寝ちまったから、ここまで運んできて!そしたら俺もそのまま…」


「さ、朝食に行くぞ」

「聞けよ!!」


シンの中ではもう理由は分かったので、これ以上話を聞く必要はない。
用は済んだとばかりに、さっさと部屋を出ていくシンを毒づきながら、ハヤテもその後を追いかけたのだった。


***


「…ドクターに、寝ぼけに効く薬がないか聞いたが、睡眠薬でしっかり眠らせるくらいしか手はねぇってよ」


シンに、今朝の事件の詳細を話していたナギが、ふぅ…と煙草の煙を吐きながら呟いた。


「へぇ…」


シンも煙草を吸いながら、とりあえず当たり障りのない返事をする。

ナギは、寝ぼけたのはハヤテの方だと完全に思い込んでいるらしい。


あんなに激しく寝ぼけるくせに、ナギはその時のことは一切憶えていない。
かつて寝ぼけたナギを初めて目の当たりにしたシンは、翌朝ナギに

『寝ぼけるのはいいが、仲間を攻撃するな!』

と、何度も文句を言ったが、当のナギは

『…は?何言ってんだ?』

と、最後まで自分が寝ぼけていたことを認めようとしなかった。

シンはもはや何を言っても無駄だと悟り、それ以来ナギにわざわざ文句を言うこともなくなった。

その為、ナギが「ハヤテが寝ぼけた」と言い張っても、反論する気もないのである。


「…それにしても、いくら寝ぼけてるからって、普通人の部屋まで入って来ねぇだろ。
夢遊病の類いかも知れねぇし、アイツ一度ドクターに診て貰った方がいいかもな…」


相変わらず甲板で騒ぐハヤテを見ながら、ナギが少し心配そうに言った。


(…いや、実際診て貰った方がいいのはお前だから)


と、シンは内心ツッコミを入れる。

そしてナギと同じく、ハヤテを眺めた。


「……」


ふと、シンが何か企むような妖しい笑みを浮かべ、煙草の火を消してナギに向き直った。


「ナギ。実はな、ハヤテが今回お前のベッドに潜り込んだ理由として、ひとつ心当たりがある」

「本当か?」


ナギもシンを見つめ返した。
シンはゆっくりと話し出す。


「昔聞いたんだが、幼い子どもは母親が赤ん坊を身籠った時、その赤ん坊に嫉妬して、やたらと母親に甘えるらしい。『赤ん坊還り』というやつだ」

「…赤ん坊還り?」

「ハヤテはお前を兄のように慕ってるだろ。つまりアイツは、赤ん坊にお前を取られるんじゃないかと無意識に嫉妬してるんだ。だからお前のベッドに潜り込んで甘えようとした。『赤ん坊還り』の類似型だな」

「…いや、いくらアイツでもそれは無いだろ。20歳だぞ?」

「精神年齢は幼児レベルだ。有り得ない事じゃない」

「……」


有り得ない事である。

しかし、ナギが黙り込んだところを見ると、完全に否定も出来ないようだった。


「赤ん坊還りには、より深い愛情を与えてやるのが一番だ。頑張れよ」


そう言うと、シンはナギの肩をポンポン叩いてその場を後にした。

残されたナギは、甲板にいるハヤテをじっと見つめる。


まさかあの歳で…とは思うが、なんだかハヤテを見ているとその可能性もあるように思えてくる。
実際、彼が隣に寝ていたのは事実なのだ。
本人は無意識でも、もしかしたらという事もあり得る。


「…より深い愛情…か」


人知れず、ナギは呟いた。


その日の夜…


ハヤテ「なぁ、なんか今日、ナギ兄がすっげー優しかったんだけど」

トワ「ナギさんが?」

ハヤテ「なんかさ、いつも食器とか運んでも『そこに置いとけ』くらいしか言わねーのに、なんでか今日は『ありがとな』って頭撫でてきた」

ソウシ「へぇ、珍しいね」

ハヤテ「しかも赤ん坊と一緒に遊んでたら、『ちゃんと面倒見てて偉いな』って褒めてくれたし、倉庫のジャガイモを数える手伝いしたら、『よくできたな』ってまた頭撫でられた。今日の夕飯のメニューも俺に決めさせてくれたし…」

リュウガ「ほぅ、明日は嵐だな」

ハヤテ「なんでだ?俺、何かナギ兄の機嫌よくなるような事したっけ…?」

首を傾げながら、ナギがいるであろう厨房に目を向けるハヤテ。

その隣では、シンが可笑しそうにニヤニヤしながら、優雅にコーヒーを飲んでいた。


おわり
 

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