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□シリウス海賊団歌秘話
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「…よし、団歌を作ろう」

リュウガが突然そう呟いたのは、夕食後の酒盛りの時間だった。

「……は?」

ワイングラスを口元で傾けた状態のまま、シンが声を上げる。
ソウシも、口に含んでいた酒を嚥下しながら、きょとんと目を見開いた。

「団歌だ、団歌。シンも入ったことだし、ここらで一曲作っておかねぇか?今後仲間が増えることを考えると、全員が一致団結するための何かが必要だと思ってな」

酒瓶を揺らしながら、リュウガがニヤリと笑う。
ソウシとシンは、顔を見合わせた。

「それなら先日、了解の挨拶は『アイアイサー』だと決めたじゃないですか。それで十分でしょう」

シンが、若干面倒そうに頬杖をついた。
その了解の挨拶を取り決めた時も、彼は随分と渋っていたが。

「馬鹿かお前。開店前のショッピングセンターの挨拶練習だったらそれでもいいが、日頃命懸けの海賊団の結束力が、そんな生易しいもので図れると思うか?」
「ショッピングセンターの店員だって生活が懸かってるんだから、ある意味命懸けだと思いますけどね」

リュウガよりも随分年下だが、シンの言葉は大人びていて冷静である。
何より、船長相手にも物怖じしない。

「うん、それは確かにそうだね」

ソウシが、微笑みながらシンに同調した。
ノリの悪い船員二人に、リュウガが溜め息をつく。

「いいかお前ら。人間ってのは、共に何かひとつの事を達成すると連帯感が生まれるんだ。歌もまたそうだ。全員が同じ歌を共に歌えば、必ずそこに仲間意識が生まれる」
「…それ、歌である必要あります?」
「大いにあるとも!歌は心を穏やかにするんだ!」
「海賊が心を穏やかにしてどうするんですか」
「全くお前はああ言えばこう言うな!ソウシ!お前シンにどんな教育してんだ!」

儘ならない部下に業を煮やしたリュウガは、矛先をソウシに向ける。
シンが入団して一月余り。
先輩であるソウシが、シンの教育係を請け負っている。

そんなソウシは相変わらず穏やかな笑みを浮かべたまま、酒を一口含んだ。

「シンが鋭い返しをくれるから、リュウガもボケなくて済むね」
「お前は一体何の心配してるんだ!;」
「あはは、冗談だよ。でも団歌を作るっていうのは、私も賛成だな」

思いがけないソウシの言葉に、シンが驚愕の表情を浮かべた。

「ドクター!」
「共通の何かで団結力を図るのは大事だと思うよ?人数が増えれば増えるほど、衝突する機会も多くなる。そうなった時、『この歌を歌ったら仲直り』みたいな暗黙の了解があれば安心じゃない?」
「しかし…!」
「海賊同士の仲間割れは、時に歯止めが効かなくなることもあるんだよ。理性を繋ぎ止める手段としても、団歌は有効だと思うな」

ソウシの意見は、とても的を得ている。
冷静かつ穏やかな意見に、シンはそれ以上何も言えなくなってしまった。
普段から、この船医には頭が上がらないというのに。

「…ドクターがそう言うなら…」

盛大な溜め息の後、遂にシンが折れた。
彼を動かしたい時は、ソウシを使う方が得策だ。
それを熟知しているリュウガは、してやったりと口角を上げた。

「よし!決まりだな!」

全員の承諾を得たとばかりに、リュウガは豪快に笑う。

「そうと決まれば、すぐに取りかかるぞ!作詞・作曲は俺がやる。船長だからな!シリウス海賊団に相応しい歌を考えてやる!」
「船長、作詞や作曲なんて出来るんですか?」
「俺に不可能はない!任せておけ!」

聞いたシンは、早速不安そうな表情を浮かべる。
上司に対してここまで素直な感情を表すことが出来るのは、彼しかいないだろう。

「シン、お前は編曲をやれ。ソウシ、お前は監修だ」
「了解です」
「分かりました」
「違う!了解の挨拶は!?」

リュウガの一声に、ソウシは「ああ、そうだった」と軽く笑い、シンは小さく溜め息をつくと、二人同時に返事をした。

「「アイアイサー」」


こうして、シリウス海賊団の団歌が作られる事となった。



しかし…


「……なんですか?この『カモンベイベー☆シリウス』って歌詞は」
「ん?『仲間よシリウスに集え』って意味に決まってんだろーが」
「『決まってんだろ』じゃないですよ!絶対これ某ダンス&ボーカルユニットの『USA』のパクりでしょう!」
「馬鹿野郎!いいものをパクって何が悪い!俺達は海賊だぞ!」
「開き直らないでください!著作権ってものがあるんですよ!」
「恐るるに足らず!何度も言うが、俺達は海賊だ!これで団結や結束が図れるなら、安いもんだ!」くわっ
「そもそもパクった歌で団結だの結束だの語らないで貰えますか!?」
「ねぇ、ここの歌詞さ、もうちょっと捻らない?一瞬何言ってるか聞き取れないような古代の言語とかさ。きっと格好いいよ」
「そんなの誰も覚えられないじゃないですか!」
「古き良き時代の言葉を入れるのも、シリウス海賊団の個性を際立たせていいと思わない?」
「思いません!ちょっと黙っててください!」

先輩二人のセンスの無さに、年若いシンの怒号が飛んだ。


***


「…って感じだったな」

シンが、手の中のグラスを遊ばせながら語った。

「…大変だったな」
「へー、僕達が歌ってる団歌って、そうやって出来たんですね!」
「マジで良かったわ。変な古代言語とか入れられなくて」

ナギ、トワ、ハヤテが、同じく酒を飲みながらしみじみと呟いた。

夕食も終え、明日到着予定の島での役割分担などを確認し終えた就寝前の一時。
「若手飲みしようぜ!」というハヤテの提案で、4人は食堂で酒を酌み交わしていた。

「入団した時、海賊団に団歌があるって事にもびっくりしましたけどね」
「あー、俺もびっくりした。何より、ぜってー歌とか歌わねーだろって雰囲気のナギ兄やシンが歌ってたのが、すげー面白くてさ!」
「そういうお前は、全然歌を覚えられなかったよな」
「うるせーよシン!あれは教える側の問題だろ!」

入団したばかりのハヤテに、超絶音痴のソウシが団歌の指導をしたため、ハヤテはいつまで経っても歌が覚えられなかった。
結局、シンが後で一から教え直すはめになったのだが、彼のスパルタぶりに耐えられなくなり、『ナギ兄がいい!』と指名して指導を頼んだのだが、あっさり断られたのだった。

「あれマジでつらかったわ。歌詞をちょっと間違えただけで銃口突きつけられるしさ」
「お前があまりにも物覚えが悪いからだろう」
「しかもナギ兄、俺が必死で頼んでるのに見捨てるし」
「…俺に歌のことなんか聞くんじゃねーよ」
「僕の時はハヤテさんが教えてくれてんですよね」
「そーそー!他の奴らになんか任せらんねーって思って、俺が直接教えることにしたんだよ!」

トワは元々歌が好きだったようで、音感も悪くなかったため、すぐにマスター出来たらしい。
ハヤテが面白おかしく教えたおかげで、楽しく覚えることが出来たようだった。
ただし時折船員達のモノマネをしながら教えていたので、シンからは「真面目にやれ!」と怒られたらしいが。

「でも、あれはあれで楽しかったです。おかげでソウシ先生の歌い方のモノマネが出来るようになりましたし!」
「お前、それ本人の前でやるなよ?殺されるぞ」
「ナギ兄の時は、誰が教えてくれたんだ?」
「…船長とドクター」
「うわ地獄!;」

ナギは団歌が完成してからの仲間第1号だった。そのため、リュウガやソウシは張り切って指導に当たったのだ。

「ナギも覚えるのに結構苦戦してたよな」
「仕方ねーだろ。歌なんて生まれてこのかた一度も歌ったことがなかったんだから」

ナギは歌の歌い方を知らなかったため、かなり基本的なところからの指導となった。
しかし、適当なアレンジを加えてしまうリュウガと、何度も言うが超絶音痴のソウシの間で板挟みになり、傍目で見ていたシンの目にも哀れに映ったという。

「あの時のナギは悲惨だったな」
「…助けろよ、だったら」
「船長とソウシさんって、スイッチ入るとすげーこだわって教えてきそうだもんなー」
「あの時ほど、船を降りたいって思ったことはねぇ」
「…でしょうね」

当時のことを思い出したかのように、ナギがげっそりしながら呟くのを、ハヤテやトワが気の毒そうに見つめていた。

その時。

凄まじい勢いで食堂の扉が開いた。

「お前ら!なに俺達に隠れてコソコソ飲んでんだよ!」

ズカズカと入ってきたのは、リュウガだった。

「げっ、船長…!」

ハヤテが気まずそうに声を上げる。
てっきり部屋でのんびり飲んでいると思っていたのだが。

「4人で和気藹々と酒盛りしやがって!何故俺やソウシを呼ばない!?」
「…若手飲み会なんで」
「ほぉ!?ナギ!お前は俺やソウシが若手のうちに入らねーって言いたいのか!?」
「…そうっすね」
「はっきり言ってくれんじゃねーかお前!」
「…船長、酔ってますね?」
「うるせーシン!お前も先輩である俺達を出し抜いて飲むとは、随分図太くなったじゃねーか!」
「ありがとうございます」
「褒めてねーよ!」

途端に賑やかになる食堂。
どうやら若手4人が飲んでいると知ったリュウガは、自分も混ざりたい一心で駆けつけてきたらしい。

「つーか船長!なんで俺らが飲んでるって知ったんすか!?船長は部屋にいたはずじゃ…」
「私が教えたんだ」

ハヤテの問いに答えつつ、スイッと入ってきたのはソウシだった。

「私達を差し置いて、随分と楽しんでるなーって思ったら寂しくなってね。船長に告げ口しちゃった♪」
「『しちゃった♪』じゃないですよ!あなた見張り番でしょう!なに持ち場を離れてこんな所に来てるんですか!」
「ふふ、シンの鋭いツッコミ、昔から変わっていないね。安心するよ」
「頭撫でないでください!」バシッ

年長組の乱入によって、大いに乱れ出す室内。
しかし、これもよくある事だ。
若手4人も、何だかんだ言いながらも年長組が入ってきたことが楽しいようで。

「よしお前ら!明日は新たな島に上陸する!食糧調達の為に寄るだけだが、新天地に降り立つ前祝いだ!各々、グラスを掲げろ!今夜は飲むぞ!」
「「アイアイサー!」」

全員揃って返事をし、高々とグラスを掲げた。

「続いて!団歌斉唱!」
「え、今!?;」

続けざまの指示に、ハヤテが二度見する。

「当たり前だ!宴とくりゃ団歌だろ!」

ご機嫌なリュウガに、ソウシも「いいね」と賛成する。
今しがた話題になっていた団歌だ。
制作秘話や、リュウガとソウシの教え方の下手さを散々語り合ったばかりだと言うのに。

そうこうしている間に、ソウシは咳払いをして喉の調子を整え、リュウガは最初の音を自分で確認している。

若手4人は、そんな2人の姿に顔を見合せると…


「……」


黙って、クスッと笑い合った。

「さぁ!準備はいいかお前ら!あ、ソウシ、お前は少しボリューム落として歌えよ?」
「え、なぜ?」
「いくぞ!シリウス海賊団、団歌斉唱!せーの!」


星が綺麗な夜。
穏やかな夜の海に浮かぶ船の中から、陽気な歌が流れ出した。



おわり



シリウス海賊団 団歌
(作詞・作曲:リュウガ 編曲:シン 監修という名の口出し:ソウシ)


俺たちゃ海賊 陽気な海賊
飲めや歌えや 朝までヨーホー
激しい嵐が船を襲っても
恐れず真っ直ぐ 波を越えろ
俺たちゃ海賊 陽気な海賊
縛り首だきゃ願い下げ

俺たちゃ海賊 愉快な海賊
酒と宝は譲らないぜ
暗い闇が海を包んでも
あの一つ星を 信じて進め
俺たちゃ海賊 愉快な海賊
哀しい時も 歌うのさヨーホー

俺たちゃ海賊 自由な海賊
仲間と共に 島から島へ
くじけそうな時は俺達を呼べよ
決してお前を独りにはしない
俺たちゃ海賊 自由な海賊
デッカイお宝ゲットだぜ


※一部、ゲーム内で公式に発表されていた歌詞を引用



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