お題

□しっかりした、あの子。
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笠松幸男
2つ下の幼なじみで、強豪校のバスケ部の部長をしていた。先週だったか、最後の大会で負けて、引退し、今は受験勉強に勤しんでるらしい。



「涼〜太〜!お前、部活は?もう8時まわってんぞ!」

夏休みも終盤にさしかかったある日、朝っぱらから幸が家に上がり込んできた。

「んあ?今日は休みだからいいんスよ。ほんで、仕事も休み!

……ん?幸?」

「部活も仕事もないならちょうど良い。ちょっと俺に付き合え。」
「はあ?」


室内に響くのは、カリカリと動くシャーペンの音と、パラパラとめくられるノートや参考書の音。

「幸、分かんないとこある?」
「あったら聞くから黙ってろ。」

いやいや、勉強教えてくれと言ったのはお前だろ。そうツッコミたくなかったけど、幸の一生懸命なところを見ていたら何も言えなかった。

「……なあ、幸。」
「なんだよ。」
「勉強終わったら、バスケしないスか?」

「今は勉強だろ。俺、受験勉強し始めるの遅かったし。」

そう言いつつも、バスケをしたそうな顔は隠せてない。勉強に一生懸命なの
はバスケのことを考えないためなんだ…。
無理をしているのが分かり、いじっぱりで弱音なんて滅多に吐かないから余計に心配でたまらなくなる。

「なあ、幸。バスケしたいならすればいいんスよ?
無理に考えないようにするのは無理っスよね?」

カタンとシャーペンが置かれる音がして、顔を覗き込むと、沈んだ表情をした幸がいた。

「そうだ、な。正直、バスケはしたい。でも恐いんだよ。
俺がしっかりしていれば、もっと勝てた。三年間楽しかったし、主将をして良かったと思う。でも後悔もあるし、責任も感じる。それを思い出すから、バスケは恐い。」

「……幸、」

「なんて、言うと思ったか。俺が涼太に弱音吐くわけないだろ。

で、涼太の悩み事は何だ?」

沈んだ顔をしていたかと思えば、真剣な顔を浮かべている。

「はあ?てか、勉強しなくていいんスか?勉強分かんないんじゃないから来たんだろ。」

「ば〜か。俺が勉強分かんないからって涼太に聞きに来るわけないだろ。」

ふんと言うような顔を向けてくる生意気な年下の幼なじみ。

「涼太が最近暗いから、心配して来たんだろうが。で、俺で良かったら聞くから話せ。」

「なんでもお見通しなんスね。」

さっきのは本音なんだろう…。しかし、決して弱い姿は見せず、前だけを向いている。
叶わないなと思いつつ、笑みがこぼれた。
これじゃあ、どっちが年上か分かんないな。

オレが悩んでたのは、最近の幸の状態が心配だったからなんだけどな


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