お題

□もっと強くなりたいです
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センパイの様子がおかしい。
笑っているけど、どこか引きつっている。
話していても、周りを気にしている。
どうしたのか聞いても、笑ってゴマかして、なにも言ってくれない。

なんで何にも言ってくれないのか悲しくなったが、センパイの顔を見ていたら何も言えなくて、モヤモヤした毎日を送っていた。

センパイがおかしい理由は、センパイと同じクラスである森山さんから聞かされた。

「黄瀬、最近の笠松、なんかおかしいなって感じなかったか。」

「それずっと思ってたんスよ。でも、センパイに理由を聞いても何も言ってくれないんス。
オレ、どうしたらいいのか分からなくて…。」

「まあ、お前に言い辛かったのは分かるけどな。」

「なんでスか。オレが年下だからスか。」

「違うよ。笠松は、あれでお前のこと頼りにしてるし。」

「じゃあなんで。」

「笠松がおかしい原因は、お前のファンだよ、黄瀬。」

森山さんの話を要約すると、オレとセンパイの仲をよく思っていないファンの子たちが、センパイに嫌がらせをしており、それが日に日にエスカレートしてるということだ。

普段、オレたち部員には、言いたいことははっきり言う

女子に免疫がないセンパイは言い返すこともできず、言われるがままらしい。
そんなセンパイを見て、言うこともやることも酷くなってるのだ。

「女子ってさ、可愛いけど、残酷だよな。」

「……そうっスね。」

自分の不甲斐なさに悔しさを感じ、俯いていると、くしゃりと頭を撫でられた。

「俯いている場合じゃないだろ。」

顔をあげると、森山さんが困ったように笑っていた。

「あいつは収まるまで耐え続けると思うよ。」

その瞬間、森山さんの顔色が変わった。視線を追うと、そこにはセンパイと数人の女子の姿。

近づいてみると、女子の口から出た言葉とは思えない言葉の数々。

「なにしてるんスか。」

とびっきりの営業スマイルで彼女たちに話しかければ、ビクッとして振り返る。

「黄瀬くん!」

なんでここにと言いたげな表情を浮かべている。
なんでじゃあねぇよ。

「なにしてるか聞いてるんスけど。何してたんスか。」

もう一度強い口調で尋ねると、俯いて唇を噛んでいる。

「泣いても同情はしないスからね。」


「言い返さなかったら、何してもいいと思ったんスか。何言ってもいいと思ったんスか。

……最低だな。」

ツッと服を引っ張られた感じがし、振り向くとセンパイが「もうやめとけ。」と声に出さず言った。
「でも……。」と口に出さず答えると、「いいから。」と返された。
はぁ、仕方ないっスね。

「2度目はないと思えよ。」

キッと睨み、そう言うと、コクコクとうなずき、走り去って行った。


女子の姿が見えなくなると、センパイが口を開いた。

「なんで来たんだよ。」

むしろなんで知ってるんだ。森山か。と一人でぶつぶつ言っているセンパイがなんだか愛しくて、

「なんで言ってくれなかったんスか。オレずっと寂しかったんスよ。」

ギューとセンパイを抱きしめると、控えめながらも抱きしめかえしてくれた。

愛しくて愛しくて堪らなくなって、なんだか泣きたくなった。

もっと強く抱きしめ、愛しい貴方の耳元で囁く。


「もっと強いなりたいです。
貴方を守れるくらい…。」
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