とある学園の死闘遊戯 罪
□第09話 苛々
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学園都市、第二十一学区。
一方通行が水没した際、上条当麻はその目で捉えていた。
一方通行に続いて、その身を迷いなく水中に飛び込ませた少女の姿を。
上条当麻「スヴィル。俺は不思議に思ってたぜ。お前はその気になりゃ何でも出来るんだろ?」
スヴィル「……それがどうした?」
上条当麻「本気で学園都市を潰す気なら、何で初めの一手で潰しに掛からなかったんだ? お前なら指を動かす感覚で学園都市全体を消すことだって出来たはずなのに」
スヴィル「…………」
スヴィルは何も言わなかった。
それは上条が指摘したことに言い淀んだわけではない。
もっと別の、もっと注意するべき事態が“到着”したからだ。
スヴィルを含めた、この場の全員が上を見上げる。
上条当麻「まぁ、いいさ。何か理由があって出来なかったとか関係ない」
第二十一学区の上空にて、左脇に少女を抱えた少年が浮遊していた。
黒い翼を背中から噴出し、笑みを浮かべて貯水ダムを見下ろす。
上条当麻「スヴィル=ペァゴーマ。お前、ここで終わりかもな」
スヴィル「………一方通行…ッ」
一方通行「覚悟は出来てンだろォなァ? 精々、愉快に楽しませてくれよ、三下共!」
AIM拡散力場。
一方通行の帰還を見届けた浜面たちは、麦野の片割を探す作業を再開する。
麦野沈利の精神そのもの。
目に見えるかも定かではなく、どんな形をしているかも分からないもの。
そんなもの、どうやって見つけ出せばいいのだろうか。
浜面仕上「迷ってても仕方ねぇな。とにかくそれらしいモンに片っ端から触れていくしかねぇ」
霊体である浜面たちは物質に干渉することが出来ない。
故に、麦野の精神がこの場所にあるならば、浜面たちでも触れられるものが“それ”に該当するのだろう。
滝壺理后「でも浜面、第二十一学区ってそれなりに広いよ?」
原子崩し「一人一人で別行動を取る方が効率が良いでしょう」
それぞれが策を練っている中、絹旗は一方通行たちに釘付けだった。
結標淡希「どうしたの?」
絹旗最愛「………いえ…」
花一匁目「とりあえず探してみるか。そこら辺触れてけば見つかるかもだし」
それぞれがバラバラに動き始める。
そんな中でも、やはり絹旗は貯水ダムの戦場に視線を向けた。
絹旗最愛(………超気のせい、ですかね…?)
絹旗は感じていた。
貯水ダムの戦場内で、まるで誰かに呼ばれているような気がしていた。
浜面たちに混じって行動する匁目も、一度だけ一方通行に目を向けた。
正確には、その傍らにしっかりと寄り添う妹の姿を。
花一匁目「…………これで、やっと安心だ……」
肩の力が抜けるのを感じた匁目は、浜面たちの手伝いを再開させる。
もう、この場の戦場に必要以上に目を向ける理由もなくなった。
一方通行が黒い翼を大きく広げる。
黒い翼が十字架を横切ると、超能力者たちの拘束具が一瞬で全て弾けた。
一方通行(とりあえずは解放、か……。あとは……)
周りには約一万人の妹達。
どうやって集まったのかは心の底から分からずにいたが今は考えないようにする。
黄泉川たちや土御門たち。
回せる人員に不足はない。
花一籠目「一方通行さん。どうするつもりですか?」
一方通行「悪りィが、ちっとばかし揺れるぞ。酔って吐かねェよォに、しっかり捕まってろ」
曲技飛行隊(アクロバット)のように大きく旋回した一方通行は、貯水ダムの最端をぐるりと一周するように飛び回り始める。
黄泉川たちから土御門たちへ。
そして最後に、拘束から解き放った超能力者たちへと回れるルートだった。