とある学園の死闘遊戯U

□第12話 消
3ページ/5ページ


 第三学区の個室サロン。

 上条と原子崩しが対峙している。

上条当麻「このゲームを終わらせてくれ、原子崩し」

原子崩し「お断りいたします」

 きっぱりと、原子崩しは即答した。

上条当麻「これが麦野の本心じゃないってことは分かってんだろ? お前の本心も、こんなことしたくないって叫んでるんだろ!? だったら今すぐやめろ!!」

原子崩し「お断りいたします」

 声を荒げる上条にも臆さず、原子崩しは繰り返した。

上条当麻「……お前を倒さなけりゃ、このゲームは終わらないのかよ……」

原子崩し「……そうかもしれませんね」

 原子崩しを倒す。

 今までだって、色々な敵と戦い、倒してきた。

 今回だって、やるべきことは同じなのだ。

 しかし、今回の場合は結末が異なる。





 原子崩しは、その身体そのものが“異能”なのだ。





 いつものように、上条が右手で殴ったら、どのようになるかは明白である。

上条当麻「俺には、お前と似たような友達がいる……」

原子崩し「…………」

上条当麻「“正体不明(カウンターストップ)”とか呼ばれてるらしいが、間違いなく俺の友達だ」

 上条は、AIM拡散力場の集合体という実体を持つ少女を思い出す。

 彼女に触れたことはない。

 触れればどうなるか、分かっているから。

 触れてしまうわけには、いかないから。

上条当麻「お前も、そんな形でどうにかならないのかよ!! お前の意思一つで、こんなくだらないゲームを、終わらせることが出来るんじゃないのかよ!!」

原子崩し「……確かに、我輩の意思でゲームを中断することは可能です」

 原子崩しは、上条を見据えてきっぱりと言い放つ。





原子崩し「だからこそ、お断りいたします。我輩の意思でゲームを左右できるのならば、我輩の心は常に主殿と共にある」





 麦野は、こんなゲームを望んでいない。

 それは分かっている。

 しかし、麦野のためにとゲームを初めてしまった以上、従者として簡単に引き下がるわけにはいかない。

 ここで引き下がれば、もっと早いうちにゲームを中断していたはずなのだ。

 ここまで来てしまったからには、無理やりにでも止めてもらうしかない。

 他力本願という意味とは勝手が異なるが、悪党らしくヒーローに敗れる結末しか選べない。

原子崩し「もっと早く、まったく違う形で、貴方とお会いしたかったですよ……。上条様……」

上条当麻「………ッ」

 上条は、唇を噛みしめる。

 口の中に血の味を感じながら、原子崩しの前へと歩み寄る。

 もう、右手が届く距離だ。

上条当麻「テメェがそこまで主人に付き従うというのなら……」

原子崩し「…………」

上条当麻「テメェが、誰かに敗れなければならない結末しか選べないというのなら……」

原子崩し(…………)

 上条は、右手を開いて……。




上条当麻「その幻想、殺させてもらうぜ……。ーーッ! くそったれがぁッ!!」





 原子崩しの頭を叩いた。

 何かが砕けるような音が響き渡り、原子崩しの姿が、バラバラに砕け散った。

 砕けた体が空気に溶けていき、やがて何もなくなった。

原子崩し(ありがとうございました……、上条当麻様……。申し訳ありませんでした……、一方通行……。お待たせいたしました……、主殿……)

 完全に消えてしまう前に、上条は確かに聞いていた。



原子崩し(……やっと、我輩も就寝することが出来ます……。おや、す……み…………)



 原子崩しの、別れの声を……。

上条当麻「ーーッ。 ちっくしょぅ……ッ!! 何でだよ……、何でだッ!? この大馬鹿野郎ぉぉぉおおおおおおおおおおッ!!!!」

 個室サロン内で、上条は“一人”で絶叫していた。







 ゲーム二日目の夜19時30分。

 何十人もの死者を出した人体発火事件は、一つ(一人)の異能の消失によって、その幕を降ろした……。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ