とある学園の死闘遊戯U
□第12話 消
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カエル顔の医者の病院。
次々と運ばれてくる患者に、忙しく働いている医者たち。
海原光貴の姿は、その病院の待合室にあった。
海原光貴「垣根帝督は、もうすぐここへ運ばれてくるそうです。一方通行さんとの戦いで、重傷らしいですよ」
土御門元春『分かった。初春って子が白井と一緒に向かっている。見つけたら案内してくれ』
海原光貴「了解しました」
土御門元春『ところで海原。お前は事件の最中、何処にいたんだ?』
海原の手には護符が握られていた。
人の皮ふで作られたそれを振り回しながら、海原はスラスラと答えた。
海原光貴「顔を変えながら、ずっと御坂さんの傍にいましたよ。精神的に危ない状況だったので見守っていたのです。必要ならばお助けしようかと。ですが、ご自分で立ち直ったようで嬉しい限りです」
土御門元春『そーかい。お前は世界が終わる危機でも変わらなそうだな』
若干の呆れ口調で返答した後、土御門は続けて問う。
土御門元春『一方通行は?』
海原光貴「どうやら、第十七学区にいるそうですよ。何処かへと移動しているようです」
土御門元春『移動中ってことは、生きてはいるんだな。安心したぜい』
そう言って、土御門は通話を切った。
話し終えた海原は、運び込まれてきた垣根を見送り、その後に駆け込んできた初春たちに事情を説明した。
上条の携帯から着信音が流れる。
カエル顔の医者からだった。
冥土帰し『事件解決、ご苦労様』
上条当麻「………ありがとうございます」
上条の声に元気はなかった。
第三学区を出た上条は、第七学区を目指して歩いていた。
とぼとぼと力のない歩みを進める上条に、意を決したカエル顔の医者が口を開いた。
冥土帰し『もうどうしようもないことだが、1%の望みも捨てない君だ。教えておくよ……』
上条当麻「……? 何を、ですか……?」
上条の問いに、カエル顔の医者は尋ね返した。
冥土帰し『知りたくはないかい? 一方通行が“どこを”焼かれていたのか……』
その答えを知った上条は、真っ先に一方通行へと連絡を試みた。
しかし、繋がらない。
土御門に連絡を取り、上条は彼の居場所を知る。
次の瞬間には、一目散に第十七学区を目指して走り飛ばしていた。
第十七学区の操車場。
一方通行(懐かしい場所……なンだろうなァ……)
杖をついた一方通行が歩いていた。
口の端からは止まることなく血が流れ、もう目は見えなくなっていた。
一方通行(能力が使える状態で、杖が必要になるとはなァ……)
もう、話す力も出せなくなった。
ドサリと、一方通行は地に倒れる。
仰向けになってみれば、満月が見えた。
一方通行(上条と、初めて喧嘩した場所、か……。最期を飾るには悪かねェ……)
手足の感覚が感じられない。
指一本も動かせず、頭も働かない。
涼しい風が吹いているのかもしれないが、もはやそれすらも感じられない。
一方通行(黄泉川や芳川、番外個体はどンな顔しやがるか……。黄泉川は後悔するかもなァ……。全力で応戦すればよかった、ってな……)
薄れゆく意識の中で、打ち止めが笑っている。
土御門や海原、白井や美琴、他にも大勢の顔が浮かんでくる。
一方通行(向こうに行けば、結標や浜面……、打ち止めに会えるのか……? 木原は……、どォでもイイか……)
最後に浮かんだのは、二人の男女。
どんな戦場も生き抜いてきた、どうしようもないヒーロー。
どんな条件だろうと、絶対に連れ戻すと誓っていた実妹。
一方通行(約束……、守れなかったなァ……)
一方通行は、ゆっくりと目を閉じた。
そしてそれ以上、再び目が開くことはなかった。
一方通行(さよならだ……。あとは、色々と任せたぜ……。上条……)
操車場に足を踏み入れた少年は、すぐに彼を見つけ出した。
冷たくなった彼の体を、ゆっくりと抱き起こす。
上条当麻「……なんだよ…これ……。なんなんだよ……おい……ッ!!」
彼は……、一方通行は、何も言わない。
上条当麻「ふざけんなよッ!! 嘘だろッ、嘘なんだろ!! おいッ!!」
少年は……、上条当麻は、溢れ出る涙を拭おうともせずに、ただただ叫び散らした。
その声に答える者は、誰もいない。
何処にも、いない……。
上条当麻「ちっくしょうッ!!!! 一方通行ぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!」
学園都市最強の超能力者、第一位の一方通行。
上条の腕の中で眠るように、その生涯の幕を降ろしてしまった。
【第13話につづく……】