とある短編の創作小説

□SRP:妹達共鳴計画
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 八月十五日。

 ミサカのデートに誘われた日から、一週間が経った。

一方通行「……散歩してくる」

09423号「あ、はい……行ってらっしゃい、とミサカは一方通行を見送ります」

一方通行「…おォ」

 時刻は夜。

 一方通行はピカピカと光る夜の学園都市へと足を踏み出した。

 あの日から、ミサカの様子はおかしくなっている。

 おかしいといっても、今までと性格が変わってしまっただとか、何処か具合が悪くなっている、という風ではない。

 何となく元気がない。

 簡単に言うならば、そんなところだった。

一方通行(結局、何があったのかは聞き出せてねェし……。ただ元気がねェってンなら、俺が図々しく出しゃばることもねェンだがなァ……)

 長く同じ空間を共有してきたせいか、妙なところで感情移入してしまっている。

 二ヶ月前の一方通行ならば、まず有りえない心境の変化だろう。

一方通行(しばらく一人で頭ァ冷やそうかと思って出て来てはみたが……効果は期待できそうにねェな)

 気になるものは気になってしまう。

 落ち着こうとする方法は諦めて、何か別のことに夢中になってみるか、と一方通行は歩き始めた。







 第七学区の町並みは、一方通行の心境とは逆に綺麗なものだった。

 だが、もうそろそろ遅い時間にもなるため、通行人の数も減っていくのだろう。

一方通行「はァ…」

?????「ん〜? 子供がこんな時間に何してるじゃんよ」

一方通行「…あン?」

 ふと声をかけられ、後ろを振り返る。

 そこには、ジャージ姿の女性教師が立っていた。

 一方通行は知らないが、彼女は高校の教師であると同時に警備員でもある。

 名を黄泉川愛穂といった。

黄泉川愛穂「こんな時間まで出歩いてないで、早く帰るじゃん」

一方通行「ちょっと散歩中なンだよ…。さっき家を出て来たばかりだ」

黄泉川愛穂「お? なら家は近いのか?」

一方通行「だったら何だ」

 一方通行の返答に、黄泉川はニヤァとした笑いを見せる。

黄泉川愛穂「なら、私が見送ってやる。子供が無事に帰れるかどうか、最後まで面倒を見てやるのが大人の役目ってやつじゃんよ」

一方通行「いらねェよ、バァカ。悪りィけど付き合ってらンねェわ。じゃあな」

 そう言って、一方通行は歩き始める。

 決して歩く速度は速くないが、黄泉川は一方通行を追わなかった。

黄泉川愛穂「やれやれ…。何か悩み事でも抱えてそうだったから相談に乗ってやろうとしたのに」

 溜息を吐きつつも、黄泉川は自分のマンションへと帰っていく。

 一方通行の見い出した、自分なりの答えを信じて。

黄泉川愛穂「でも、あんな子は自分自身で道を切り開いていくタイプじゃんね…。なら、私の出番もいらなかったか…。失敗失敗」

 一方通行の素性を知ってか知らずか。

 一方通行の悩みを知ってか知らずか。

 子供のためを思って行動してくれる優しい警備員の見解は、正解か不正解か。

 何も知らない黄泉川の見立てなど関係なく、一方通行の物語は回っていく。







 気が付けば、人の足も少なくなってきた路地に入っていた。

 時刻を確認すれば、もうすぐ二十一時になる頃だ。

一方通行「出歩き過ぎたな…。そろそろ戻るか…」

 マンションに戻ろうと思った矢先、一方通行の前に一人の少女が顔を出した。

????「…おや、一方通行ではありませんか」

一方通行「あァ?」

 この短期間で、二人目に声をかけられた。

 今度は誰かと顔を向ければ、そこには見知った顔の少女が立っていた。

一方通行「……オマエ」

ミサカ「と、ミサカは思いがけない出会いに少しだけ驚きつつ名を上げます」

一方通行「オマエも散歩に出たのかよ………って、あァ…?」

 一方通行は、目の前の妹達をミサカ9423号だと認識していた。

 しかし、目の前のミサカは一方通行には見覚えのないバッチを制服の裾に着けていた。

一方通行「オマエ、別の個体か」

09982号「ミサカ9423号のことを指していたのでしたら、それは間違いです。このミサカは9982号です、とミサカは自己紹介します」

一方通行「オマエらホント見分けがつかねェなァ。そのバッチがなけりゃ分からなかったっつーの」

 ミサカ9982号の制服の裾に着けられたバッチは妙に子供っぽいカエルのデザインだったが、それで見分けがついたことに興味を向ける。

 見た目の装飾から変化を見せてきた妹達は、一方通行が知る限りでも初めてのケースである。

一方通行「オマエらって、そういうモンにも個性が出てくンのか? つーか、そンなモン持ってたのかよ」

09982号「まさか欲しいのですか? あの一方通行が? このバッチを? とミサカは信じられないものを見る目付きで若干引き気味に訊ねてみます」

一方通行「いるかよ、そンなガキくせェモン。つーか、オマエそういう目で見られるようなモンを自分で着けてることにコメントはねェのか? 棚上げしてンじゃねェよ」

 話の腰が折れたものの、ミサカ9982号はすぐに軌道を戻してくれた。

09982号「これは先ほど、ミサカへのプレゼントとしていただいたものです、とミサカはバッチへと手を伸ばします」

一方通行「プレゼントだァ?」

09982号「はい。もう少しマシな物はなかったのかよ……、とミサカは嘆息して付け足します。ふぅ…」

一方通行「そう言いつつもバッチを外してねェところ見ると、俺には気に入ってるようにしか見えねェわけだが、どォなンだ? オイ」

 とにかく、遅い時間に路地で男女が話し込んでいるのも状況的に悪い。

 一方通行とミサカという組み合わせが夜の時間を外で共にするのは、何かと気まずい空気にもなり…………易いのだろうか?

一方通行(さすがに二ヶ月も経ってちゃ、ふざけた環境でも慣れちまうモンなのか……。怖ェモンだな……)

 路地を出て直ぐに、ミサカ9982号は歩き出した。

09982号「では、ミサカはこれで失礼します、とミサカは一方通行に別れを告げて立ち去ります」

一方通行「…待て」

09982号「…? はい、とミサカは立ち止まります。何でしょうか? とミサカは間髪入れずに問いかけます」

 歩き去ろうとしたミサカ9982号を呼び止めた一方通行は、何気なく学園都市の夜空を見上げて呟いた。

一方通行「……ちょっと、話に付き合ってもらって構わねェか…?」







 人の気がなくなった夜の操作場。

 その真上を横断している鉄橋まで、一方通行とミサカ9982号はやって来た。

 そのまま操作場まで下りてきた二人は、やっと足を止めて対峙する。

09982号「話、というのは何でしょうか? とミサカは問いかけます」

一方通行「…一週間前、俺がオマエらの心境を訊いたのは知ってるよな?」

09982号「はい。それでしたらミサカネットワークを通じて情報を取得済みです、とミサカは解説します」

一方通行「なら話が早ェ。単刀直入に言うぜ」

 トンッ、と軽く地面を足で蹴りつけた一方通行は能力を発動させる。

 砂利が敷き詰められた地面よりも更に下層から持ち上げられた岩盤が顔を出し、手頃な大岩がいくつもいくつも、一方通行を取り囲む形で現れる。

 見様によっては、まるでいつでも投擲できるための武器にも見えるだろう。





一方通行「今ここで、俺が第9982次実験を行う、って言ったら……オマエはどォする?」
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