とある短編の創作小説

□SRP:妹達共鳴計画
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 しばらく沈黙が続いた。

 それは数秒だったかもしれないし、数十分だったかもしれない。

 時間の感覚が分からなくなるような、複雑な気分で満たされていた。

09982号「……お断りです、とミサカは返答します」

一方通行「それは…オマエ個人の意思か? それとも、実験が凍結されたから、って…ただそれだけの理由で言ってるだけか?」

09982号「…? 一方通行は何の詮索をしているのでしょうか? とミサカは疑問に思います」

一方通行「胸ン中の不快感が拭えねェンだよ。樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の消失に始まり、実験の凍結。オマエら妹達の感情や、最近のアイツ(9423号)の様子まで。気持ち悪くて仕方ねェンだ」

 ガッ! と真横の大岩を掴み、バギィンッ!! と簡単に粉砕する。

 その様子を、ミサカ9982号は黙って見届けていた。

一方通行「俺は学園都市の第一位だ。言うならば、学園都市の最優秀生徒なンだぜ? その俺が“分からねェ”って言ってンだッ。今、俺の知らねェところで何が起きてンのかッ」

09982号「……一方通行、あなたは…、まさか…」

 と、その時。

 一方通行を取り囲んでいた大岩が全て、第三者による“電撃”によって崩された。

一方通行「……あァ?」

09982号「……ッ」

 鉄橋から操作場へと降りてきた第三者は、一方通行を睨んでいる。

????「……離れなさい…ッ」

 右手に構えたコインの照準を合わせながら、超能力者の第三位が一方通行に言い放つ。



御坂美琴「ーーー今すぐッ、その子から離れなさいッ!! 一方通行ぁッ!!」



 遠目からでは、新たな妹達かと思ったが、その気迫が魅せる雰囲気は桁違い。

 だからこそ、一方通行は人目で確信した。

一方通行「……ハッ、そォか…。オマエが“オリジナル”かァ…」

御坂美琴「……ッ!!」

 美琴はミサカ9982号を視線だけ向けて確認する。

 見たところ、大きな怪我などは負っていない。

御坂美琴「…アンタ、こんなところで何してんのッ」

一方通行「……実験をしようとしてた、って言ったらどォすンだ?」

09982号「…ッ、何をッ!?」

御坂美琴「アンタッ、その子たちに恨みでもあるわけ!? 学園都市最強の力がありながら、無理やり実験をやらされてたってわけじゃないんでしょ!!」

 美琴の憤りに答えるように、一方通行は悪役を演じていく。

 実際に悪役のような立場だったのだから、演じるも何もないのだが。

 ただ、自分に向けられた多くの感情を見ていくために。

一方通行「ンなモン、簡単な話だ。俺は絶対的な強さに憧れた。それを求めたッ。無敵(レベル6)が欲しかったンだよッ! これで満足したか? 一方通行(アクセラレータ)にも及ばねェ、格下の超電磁砲(レールガン)ッ!!」

御坂美琴「ーーーッ!! うぅぉぉぉぁぁああああああああああああああああああああッ!!!!」

 超電磁砲が放たれた。

 一直線下の砂利をも消し飛ばし、一方通行の額に直撃する。



 瞬間、美琴の真横を通過する形で易々と反射された。



御坂美琴「ーーーッ!!?」

 これが第一位と第三位の力の差。

 最強無敵の電撃姫も、一方通行には通じない。

 その常識は、常盤台中学の中でしか渡り通ってはいないのだ。

一方通行「あァ? まさか、こォンなシケたモンがお得意の超電磁砲だったとでもヌかす気か? オイ」

御坂美琴「…ぁ……ぁッ…」

一方通行「…チッ、やァっぱ…この程度かよ」

 項垂れる美琴を見て、一方通行は溜息を吐く。

 結局、一方通行は何がしたかったのだろうか。

 何が目的で絶対能力進化に関わってきたのか、もはや思い出すことも億劫だ。

一方通行「実験は凍結し、妹達を殺すこともなくなった。だがしかし、一方通行を取り巻く環境は変わるどころか、更に悪化していく一方です、ってか……。俺は笑えばイイのか、泣けばイイのか、もォ分かンねェよ」

御坂美琴「………は…?」

 すると、ここでようやく美琴が顔を上げた。

御坂美琴「今、何て言ったの……? 実験が、凍結?」

一方通行「あァ? オマエ何も知らねェで突っ込ンできたのかよ。絶対能力進化は、もうとっくに」





御坂美琴「“そっち”じゃないわよ!! アンタ、その実験に関わってたくせに、何も聞かされてないわけッ!!?」





一方通行「……あァ? 何のことだ?」

 一方通行の反応から、ミサカ9982号も確信を得た様子を見せた。

09982号「お姉様が駆けつける直前に、もしやと思っていましたが……やはり知らなかったのですね。考えてみれば、一方通行は第9423次実験時から非協力の意思を見せていましたので、部外者と見なされても当然と言えば当然でしょう、とミサカは一人納得します」

一方通行「一人で納得してンじゃねェ! どォいうことだ!? 何が起きてンのか、俺にも教えやがれ!!」

 蚊帳の外に出された一方通行だが、必死に蚊帳へと食らいついてくる。

 何も知らなかった一方通行を見て奥歯を噛みしめつつ、美琴は重い口を開いて説明を始める。

御坂美琴「今日の昼間。アンタが実験から下りたことは、この子から聞いたわ。でも実験が凍結したって事実に疑問が消えなかったのよ。何で“中止”じゃなくて“凍結”なのか、ってねッ」

一方通行「……ッ」

 一方通行が樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の件で引っかかっていた答えは、このことだった。

 もう実験結果の演算が出来ないというのに、何故“凍結”という決断になったのか。

 一方通行が非協力的ならば、実験を続行することは不可能だというのに。

09982号「絶対能力進化の実験は完全に凍結しました。しかし、ミサカたちによる実験は別の実験として採用が決定されています、とミサカは解説します」

一方通行「…何だとッ!?」

御坂美琴「その子、実験関係者以外には口を割らないから、私が代わりに教えてあげる。尤も、これもハッキングして入手した情報だから、大きな顔は出来ないけどねッ」

 実験関係者と見なされなかった一方通行には伝えられなかった、新たな実験。

 その内容が、美琴の口から一方通行へと伝達された。





御坂美琴「第二候補(スペアプラン)を応用力向上を目的とした、順位改変(クラスチェンジ)計画。学園都市の第二位がアンタを超えるために、全ての妹達に牙を向けてるのよ!」





 一方通行が絶対能力進化実験を承諾しなけば、こんな馬鹿げた悪夢の輪廻は起こらなかったのに。

 最後に美琴は、そう叫んでいた。







 マンションの一室。

 一人ぼっちのミサカは毛布の中で震えている。

09423号「…ぅ、ぅ……ッ…ひぐッ…」

 最も古い検体番号は9423号。

 自分が最初の犠牲者になるかもしれない。

09423号「いや…だ…ょ……ッ…、死にたく……ない…ぅぅ…ぐすんッ。う、ぅぅ………ッ」

 ミサカネットワークを通じて、一方通行が実験の詳細を知ってしまった事実を認識したミサカは、身を抱きしめて泣いていた。

09423号「…ひぐッ………ぁ……、あくせ、ら……れ…ぇ…た……ッ…。助けて……ッ」

 戦いたくないと願ったミサカの思いは天に届かず、学園都市の闇は新たな悪夢を妹達へと差し向ける。
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