とある短編の創作小説

□SRP:妹達共鳴計画
2ページ/4ページ


 垣根は月を眺めていた。

 仰向けに倒れているから。

 ならば何故、仰向けに倒れているのか。

 顔面を殴り飛ばされたから。

 誰に、と問われれば答えは一つ。

垣根帝督(なん、だ…と……ッ!? この、俺…が……ッ!!)

 目の前に立つ、最弱の無能力者(レベル0)に。

上条当麻「………」

垣根帝督「ーーーッ!! くそ、があああッ!!!!」

 即座に起き上がった垣根は、上条に向けて突進する。

 しかし上条への攻撃が届くことはなく、ヒョイヒョイと簡単に避けられる。

 そしてその度に、何発もの右拳が垣根へと叩き込まれていった。

垣根帝督「ーーーごっぱッ!!」

上条当麻「うぉぉぉおおおおおッ!!!!」

 無能力者が超能力者を攻めている光景を前に、倒れ伏していた一方通行は驚愕に目を見開いて立ち上がった。

 折れた右腕の痛みを感じつつも、自分の見ているものが信じられなくて呆然としてしまう。

一方通行「どォなってやがる……。アイツは、一体……」

御坂美琴「まぁ、驚くのも無理ないわよ。この私でさえ、あいつに勝ったことなんて一度もないんだから」

 一方通行に歩み寄った美琴は、一方通行の右腕に触れようと手を伸ばす。

御坂美琴「触れても問題ないわよね? 骨折のせいで真面な演算も出来ないみたいだし」

 ピリリッ、と微弱な電磁力が一方通行の右腕に走る。

 すると、先ほどまで感じていた右腕の激痛が治まっていく。

一方通行「…オマエ」

御坂美琴「骨折を治したわけじゃないわよ。筋組織に刺激を加えて、痛みを麻痺させただけ。一時的なものだから直ぐに痛覚も戻るわ」

 それだけ済ませた美琴は、再び上条と垣根の戦いに視線を移す。

 そして背中を向けたまま、一方通行へと行動を促した。

御坂美琴「だから、そっちで倒れてる9423号の妹達を連れて、すぐに病院に向かいなさい」

一方通行「なッ!! 何言ってやがンだ、テメェ!? あの無能力者が相手してンのが誰だか分からねェわけじゃねェだろォが!」

御坂美琴「分かってるわよ。でも、だからこそ、なの。これがあいつの作戦なんだから」

一方通行「……どォいうことだ…?」

 疑問が消えない一方通行に、美琴は簡潔にまとめて説明した。

御坂美琴「この実験は、垣根帝督の能力を向上させて学園都市の第一位に昇格させることが目的。つまり、垣根帝督が第二位の価値がある能力者であることが前提なの」





御坂美琴「それほど強力な能力者が、もしも無能力者に負けたら? さてさて、この実験はどうなっちゃうんでしょうね?」





 垣根の能力の価値は、一気に下がる可能性がある。

 もしそうならなかったとしても、今のままで実験が続行されるとは思えない。

 だが、それはつまり……。

一方通行「あの無能力者が、たった一人で垣根帝督に立ち向かって、打ち倒すってのか!? ありえねェ!」

御坂美琴「私もそう思うわよ。でもね、あいつはきっと成し遂げるわ……。私を軽くあしらうほどの能力者よ? もしかしたら、あんただって敵わないんじゃない?」

一方通行「…………ッ」







 上条に殴られ、垣根は完全に困惑していた。

 未元物質が通用しない。

 戦場の常識を塗り替えられない。

 即ち、垣根の戦術手段が完全に封じられていることになる。

垣根帝督「くそ…くそ……くそくそくそ…ッ」

上条当麻「……妹達だって、精一杯生きてんだぞ…。そんな風に努力してきた人間が、テメェの食い物にされていいはずがねぇだろぉが!!」

垣根帝督「……く、はは…ッ。人間、だ? ありゃ人形だろうがッ。言葉間違えてんじゃねえぞ、くそがッ」

 首の関節をゴキゴキと鳴らした垣根は、眼前の上条を見据えて笑う。

垣根帝督「学園都市の闇の片りんも見えてねえ盲目野郎が……ッ。血生臭え実験に首突っ込んでんじゃねえよッ!」

 次の瞬間、垣根の背中から真っ白な翼が勢いよく伸びる。

 六枚の輝く白い翼は、科学の街には不釣り合いな神々しさを放っていた。

垣根帝督「皆まで言うなよ? 似合ってねえのは自負してんだ……。これが第二位の超能力…、未元物質の真骨頂だあ!!」

 垣根の周囲に竜巻が発生し、上条の体を易々と巻き上げる。

上条当麻「ーーーうわッ!!」

垣根帝督「上昇上昇!! おい、最弱!! 人間てのはどれぐらいの高さから落下すりゃ、木っ端微塵に砕け散るんだろうなあ!? えぇ!?」

上条当麻「ーーーッ!!?」

 垣根が何をするつもりなのか察した上条は恐怖する。

 未元物質が操っているとはいえ、上条を包んでいるのは“ただの風”だ。

 幻想殺しの効果は働かない。

上条当麻「ーーーま、待てッ!」

垣根帝督「いいぜ、大した度胸だった……。超能力者の第二位を前にして、いまだに呼吸できていた事実を称賛してやるよ……。だが、もう楽になってもいいんだぜ?」





垣根帝督「ーーー絶望の中で息絶えろ」





 瞬間、呆気ないほど簡単に竜巻が分散する。

 上条の体を浮遊させていた風の力が一瞬で消失し、真っ逆さまに落下を始める。

上条当麻「ーーーうわぁぁぁあああああッ!!!!」

 地面に激突すれば、即死は免れない。

 ゲラゲラと笑う垣根を視界に捉えていた上条の目に、別の何かが飛び込んでくる。



 垣根と同じように風を操り背中に竜巻型の翼を生やした一方通行と、一方通行の左腕に抱えられながら上条に向けて手を伸ばす美琴の姿だった。



上条当麻「…あッ!」

御坂美琴「ーーー掴まって!!」

 上条が落下する前に、美琴と一方通行は救出に成功する。

 それを眺めていた垣根は、気に食わないものを見る目付きで小さく舌打ちをした。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ