とある短編の創作小説

□SRP:妹達共鳴計画
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 操作場を大きく旋回して、ミサカのところで降り立った一方通行は、美琴と上条も地面に下した。

一方通行「垣根の勝敗には干渉してねェンだ。この程度の手助けは目ェ瞑っとけ」

上条当麻「あ、あぁ……サンキュ」

御坂美琴「……悠長なこと、言ってる場合じゃないかもよ」

 上条と一方通行の会話に割って入った美琴は、垣根の姿を凝視していた。

 鋭く伸ばされた六枚の翼に加え、垣根の体にも変化が表れ始めている。

 両腕まで翼に変質を始め、肌からはユラユラとした湯気のようなものが立ち上っている。

一方通行「なンだ、ありゃ……」

垣根帝督「…くく……、何体目か忘れちまったが、とある妹達を殺した時のことだ。俺の能力は、人体を構築する域にまで達している…」

 メキメキメキ、と鈍い音を立てて、垣根の体は人間の領域から少しずつ、だが確実に離れていく。

垣根帝督「この件に関しての反論は受け付けねえぞ…。俺は既に三ケタを超える妹達を殺したが、そこにいる第一位に比べりゃ可愛いもんだ……。何しろ、九千体以上だろ? さすがは第一位だ、頭が上がらねえぜ…ッ」

一方通行「………」

 一方通行はチラリとミサカの姿を確認する。

 垣根に襲撃され、大きなダメージは与えられていないものの、恐ろしい思いをしたことは間違いない。

 だが、それでも一方通行が駆けつけた時には救われた思いを抱いてくれたはずだ。

 かつて殺す側だった一方通行に、救いの感情を抱いてくれていたはずなのだ。

一方通行「…だが、俺の罪が消えるわけじゃねェ……。分かり切ってンだよ、そンなことは…」

御坂美琴「一方通行……」

09423号「………」

一方通行「…………。上条。超電磁砲。ミサカ」

上条当麻「…ん?」

 一方通行の急な呼びかけに、三人の視線は一点に集まる。

 三人の注目を集めた一方通行は、あるものを眺めて呟いた。

一方通行「……ちっとばかし、力ァ貸せ」

 風力発電のプロペラが、一方通行の視線の先で回っていた。







 垣根帝督は、自身の体を未元物質そのものに作り替えようとしていた。

 無限の創造性を手に入れてしまえば、あらゆる攻撃を受けたとしても即座に再生が可能になる。

 上条の能力がどんなものか解析できていないが、殺しても死なない体を手にしてしまえば解析など必要ない。

垣根帝督(第一位へ昇格? 最強? 超能力者だ? そんなもんは、どうでもいい!! 新たな未元物質の能力を、今ここで試せりゃ何だって構わねえ!!)

 操作場に風が吹く。

 戦場という雰囲気にはピッタリだと場違いなことを考える余裕があった垣根は、少し遅れて事態に気付いた。

 先ほどから吹いている風は、自然風とは思えない流れで操作場を包んでいる。

垣根帝督「……何だ…? 何が起きて………ッ!!?」

 そして、その答えはすぐに明らかになる。

 目の前に立っていた一方通行が、集まってきた風を一点に凝縮させて操っている。

 その頭上には、辺り一帯を吹き飛ばせるほどの破壊力を誇る高圧電離体が発生していた。

垣根帝督「プラズマだとッ!? てめえ、正気か!!?」

一方通行「スゲェだろ? 妹達のネットワークを通じて、負傷中の俺でも演算しやすいような流れで、学園都市中のプロペラを操ってもらってンだ。今夜限りのコラボレーションだぜ!」

09423号「こんなミサカでも、一方通行のお役に立てるなら力を惜しみません、とミサカは戦場の情景をネットワークに実況しつつ胸を張ります。えっへん」

御坂美琴「一方通行が制御したプラズマは、外側から私が固めてやるわ。この程度しか出来ないけど、超能力者が二人も手を加えてんのよ……。学区一つ分くらいは吹き飛ぶでしょうね」

 美琴の力量では、本来の一方通行に干渉することも出来ない。

 だが、今の一方通行は右腕の骨折による痛みで万全な力など発揮できない。

 そこを補うのが美琴の役目だ。

垣根帝督「…はッ、ふざけたことを……。そんなもん食らったところで俺にダメージが届くとは思えねえが………てめえらの策が発動するってのがムカつくんだよなあ…。だから壊す」

 垣根の能力が、自己の形成から目標の破壊へと切り替わる。

 人間としての姿と力を一時的に取り戻した垣根は、一方通行たちが作り上げたプラズマに向けて最高威力の未元物質を放った。

 バチバチバチッ!!!! と高威力の電磁波を撒き散らしながらも、未元物質に包まれたプラズマは徐々に消失していく。

 やがて風も止み、もとの静寂が操作場を包み込むにまで至ってしまった。

垣根帝督「……くくく、くっははははは!!!! 残念だったな、最強!! てめえらの策も大失敗だ!」



一方通行「いいや、オマエのおかげで大成功だぜ。ありがとよ」



垣根帝督「……あ?」

 今回の目的は実験の中止。

 それには、上条が垣根を一人で撃破することが最重要。

 つまり、一方通行たちは垣根の勝敗を左右するような大きな手出しが出来ないのだ。

一方通行「俺たちは、ただの通行人Aだ。たまたま操作場の近くで、プラズマ作って遊ンでたガキに過ぎねェンだよ。ガキの遊びなンざ、無視してりゃ良かったのになァ」

垣根帝督「…あ? あ…、ああ……?」

 一方通行たちがやったことは、垣根を攻撃することではなく、ただプラズマを作っただけ。

 攻撃してしまっては、この実験を中止にすることはできない。

 だが、プラズマに注目してしまった垣根は自分の能力の最高威力を放って“ガキの遊び”に干渉した。



 つまり、今の垣根は未元物質を高威力で振るうことはできない。

 もう一度その力を整えるには、かなりの時間を有する。

 即ち、今の垣根は“あいつ”にとって無能力者も同然に陥っている。



垣根帝督「ーーーッ!!?」

一方通行「道は開けてやったぜ……。突っ込めッ!! 上条!!」

 一方通行たちの背後から飛び出した上条は、一気に垣根へと突進する。

 再び自己の形成に移る垣根だが、時間が足りなさ過ぎる。

上条当麻「歯ぁ食いしばれよ、最弱(サイキョウ)」

垣根帝督「……くッ」





上条当麻「ーーー俺たちの最強(サイジャク)は、ちっとばっか響くぞッ!!」

垣根帝督「ーーーくっそおおおおおおッ!!!!」





 ズッガァァァンッ!!!! と上条の右拳が垣根の顔面に叩き込まれる。



 今回の実験において、致命的な問題が発生。

 ミサカ9423号を相手とした実験の最中、無能力者の一般人が乱入。

 結果、超能力者の垣根帝督が無能力者の一般人に完全敗北。

 被害は第十七学区の操作場一帯と、たまたま通りがかった“通行人A”の右腕骨折。



 未元物質の応用性の向上以前に、垣根の能力価値に疑問が浮上。

 よって、順位改変計画は実験凍結を決定する。
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