新説 とある学園の死闘遊戯
□第10話 力
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学園都市の上空。
窓のないビルの真上を、中型の旅客機が素通りした。
旅客機は乗機口が開いており、中から三人の人影が学園都市を眺めている。
ヴェント「あ〜ぁ、つまんない。科学サイドのクソ共をブッ潰す前に、勝手に自滅しちゃうなんてね」
アックア「これで科学と魔術の秤は、魔術サイドへと大きく傾くのであるな……」
テッラ「しかし、どうにも困りましたねー。我々“神の右席”の出陣なくして、一方の領地が終焉を向かえるとは」
奇抜な格好をした男女。
魔術サイド・ローマ正教の禁断暗部組織。
“神の右席”の面々が、学園都市崩壊の見物感想を口にしている。
そんな彼らへと、旅客機の内部から声をかける男が一人。
フィアンマ「まぁ、そう言うな。まだまだ楽しみはこれからかもしれないぞ?」
“神の右席”のリーダー格、フィアンマ。
腕を組み、脚を組み、備え付けのソファへと体を堂々と沈めている様は、まるで王様のようだ。
アックア「む? それはどういう意味であるか?」
フィアンマ「科学サイドがこの程度で滅ぶはずがない。俺様は、そんな貧弱勢力を相手にするつもりはないからな」
そんな会話を交わしている時、旅客機の周りを飛び回る小型戦闘機が現れた。
乗っているのは黒マスクの少女たちで、神の右席が知るはずもないが妹達である。
黒侵入者「敵・排除」
どうやら、学園都市上空を飛ぶ旅客機を敵と認識したらしい。
テッラ「おやおや。随分と命知らずのようですねー」
四方八方から狙撃され、旅客機が襲われ始める。
しかし……。
テッラ「優先する。“旅客機を上位に、銃弾を下位に”」
赤ワインを不味そうに飲み干したテッラが、優先順位を変更した。
一瞬で、旅客機そのものが全ての銃弾を弾いてしまった。
ヴェント「大雑把な定義でも発動できるのは利点よね。ま、こっちの方が簡単だけど」
ヴェントは、狙撃してきた小型戦闘機へと視線を向ける。
狙撃者である黒い侵入者がヴェントの顔を捉えた瞬間、機内でバタリと気絶したようだ。
ヴェント「ね♪」
テッラ「天罰と処刑、神と人の処罰では比べられませんねー」
アックア「それは“負け惜しみ”というヤツであるか?」
テッラ「騎士様は言うことが辛辣d」
アックア「騎士ではないと何度言ったr」
フィアンマ「もういいか?」
終わりそうもないお喋りを打ち切ったフィアンマは、スーッと三人へと歩み寄る。
目下の学園都市では、第一位と第二位が。
また、第五位と魔術師が戦っている様子が窺えた。
フィアンマ「ほぉ、イギリスの魔術師が参戦しているな……」
アックア「フィアンマ、それを言うならば」
そこで、アックアは会話を断ち切る。
旅客機へと突っ込んできた小型戦闘機を、何でもないかのように片手で鷲掴んだからだ。
アックア「我々が今、学園都市を襲う輩と戦っていることも、助力に値するのではないか?」
フィアンマ「………そうか…。それもそうかもな」
何を思ったのか、フィアンマはサッと右手を上げた。
その動作だけで、周りを飛んでいた小型戦闘機がゆっくりと降下し始めた。
フィアンマ「ならば倒さず、俺様たちの邪魔もさせずだ。黒マスク共が何者かは興味はないが、ここは殺さないでおいてやろう」
ヴェント「学園都市を潰させるために?」
フィアンマ「……いいや」
上空という名の特等席にて、学園都市の終焉を見届ける“神の右席”の面々。
黒い侵入者たちを強制的に地上へと無傷で戻したフィアンマは、笑みを浮かべながら観賞する。
フィアンマ「エンターテイメントを盛り上げるためだ。科学サイド、俺様を退屈させるなよ。俺様たちの敵である学園都市は、それほど脆弱ではないだろうさ」
妹達を殺さなかったという意味では、結果的に学園都市の一部に助力したわけだが、当然フィアンマが気付くはずがなかった。
テッラ「不味ッ」
アックア「そのワイン、飲まなければ良いのでは?」