新説 とある学園の死闘遊戯
□第12話 白
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アレイスターは焦っていたのかもしれない。
この感情を、本人も表現できていないだろう。
アレイスター(あの力は、私の計画(プラン)には存在していない……。暴食の竜王……)
今の上条は文字通り“瀕死”だ。
左目は左耳ごと削がれ、左腕も骨折している。
左腕だけではなく、あばら骨を含めた全身の骨がボロボロである。
ひどかった出血は火傷によって治まっているが、それ故に火傷がひどかった。
アレイスターの衛星光波によって、身体の節々を貫かれている。
ちょっと力むだけでも激痛が走るはずだ。
上条当麻「なぁ、もう止めにしねぇか?」
アレイスター「……なに?」
不意に、上条が口にした。
もう止めにしないのか、と。
アレイスター「……どういう意味だ」
上条当麻「そのままの意味さ。こんなことしてても意味ないだろ? 学園都市を作り変えて何になるってんだ」
ボロボロの身体でも、上条は二本足でしっかりと立っている。
その姿が、更にアレイスターに冷や汗を流させる。
上条当麻「学園都市を新しくしたところで、お前の計画は止まらないだろうし、また今回みてぇに失敗するのがオチだ。それじゃ意味ないし、何より楽しくねぇって」
アレイスター「……楽しい…?」
上条当麻「あぁ、それじゃあ“楽しくない”……」
竜王の顎を振るいながら、上条当麻は真っ直ぐにアレイスターを見据える。
上条当麻「楽しい毎日を、学園都市で送っていきたい。それが俺の……、俺たちの望んでいる未来なんだよ!」
アレイスター「…………」
上条当麻「…………」
少しの沈黙。
それを破ったのは、アレイスターだった。
アレイスター「残念だが、もう私は止まるつもりはない。それでも、君が望む未来を手に入れたいのならば、私の作る未来を君が望んでいないのならば……」
フッと、アレイスターの姿が一瞬で消失する。
アレイスターの言葉は、上条の真上から聞こえてきた。
アレイスター「破壊と再構築を進めようとする、この私を超えてみせろ! 幻想殺し、上条当麻ぁ!!」
その手に握るのは、衝撃の杖(ブラスティング・ロッド)。
ガラスのように透明化した杖は、不気味な雰囲気を噴出しながら上条を狙う。
上条当麻「………どうあっても、分かり合えねぇのかよ……」
ひどく残念そうに、上条は唇を噛む。
一瞬後、上条は上空を見上げて右腕を振るう。
竜王の顎が反応し、アレイスターに向かって大きく吠えた。
その大口で、アレイスターの衝撃の杖を受け止める。
否、食い潰した。
アレイスター「ーーーッ!!?」
上条当麻「アレイスターッ! テメェが、何が何でも計画を遂行するというのなら!」
竜王の顎が空気に溶けていく。
スローモーションのように降りてくるアレイスターの前に、上条はグッと右拳を握る。
丸腰のアレイスターに、もはや勝機はなかった。
上条当麻「そんなくだらない幻想!! 今ここでぶち殺してやるよッ!!」
アレイスターの顔面に、上条の右拳がめり込む。
鼻が折れ、鼻血を流しながら、アレイスターの身体が飛ばされた。
その顔は相変わらず、何の感情も表していない無表情だった。
しかし、感じ取れる雰囲気は変わっていた。
まるで、肩の荷が下りた、と言っているように。
アレイスターの表情は、ほんの少しだけ涼し気だった……かもしれない。