我ら、篠原家!
□絶対王者編 「家族」
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佐々木治郎は、幼い頃から“敗北”を知らなかった。
自分が望み、それ口にするだけで勝利できるのだから努力の必要もない。
彼は、鼻唄に乗せて命令を下すことも体得した。
事象を思い描きながら鼻唄を歌うだけ。
その唄を耳にすれば、聴いた者は命令に従ってしまう。
“倒れろ”と望みながら鼻唄を歌えば、聴いた者は全員が倒れてしまう。
あらゆる命令を自在に下し、完璧な自分だけの王国を作り出す、王様のような存在になれる力。
それが“生きる王国(オーダー・ルーム)”だ。
だと言うのに……
治郎「なんでテメェは………、王である俺に、逆らうんだッ!?」
香澄「簡単よ。私も“王様”だから」
治郎「なんだt……!?」
治郎が言い放つ前に、香澄が治郎の懐へと駆け込む。
香澄「ただし、一番偉いわけじゃないけどね」
声色は優しいが、鳩尾に放った一撃はキツいものだった。
治郎「ーーがァッ!!!」
前屈みになる治郎を見下す香澄の能力は、主と決めた者以外の命令に逆らい、逆に命令できること。
“第二王者の特権(セカンド・プライド)”。
治郎の能力が、あらゆる人々を屈服させる命令を放とうとも、香澄が主と認めていないのならば、彼女は絶対に従わない。
高貴は、人気のない森の中にて、携帯を片手に歩いていた。
発信したのではなく、着信だった。
影人『どぉ? 見つかった?』
高貴「あぁ……。半信半疑だったけど、ついに見つけちまったよ……」
高貴の目の前には、まるで隕石が落ちたかのような巨大なクレーターがあった。
その中心点からは、紫色の靄が立ち昇っている。
高貴「で? これは一体なんだ?」
影人『さぁ?』
即答だった。
影人『調べてみないことには分からないよ。こっちも負傷してるし、後で調べに赴くさ』
高貴「負傷? 転んだりしたのか?」
影人『………まさか、これだけ騒ぎになってて気付いてないのか……』
疑問符を浮かべる高貴に、影人はスラスラと話した。
全てを聞き終えた高貴は、通話を切った直後に走り出す。
我が家の、長女のいる場所へ……。