とある学園の死闘遊戯 罪

□第02話 過去
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 ズガーーンッ! と壁にヒビが入る音が響き渡った。

 風紀委員第177支部。

 一方通行は、垣根帝督と対峙している。

 昨夜、白井から告げられた報告を垣根に話したところだった。

 今この場には二人しかいない。

 そして、先ほどの音の元凶は垣根にある。

垣根帝督「てめえ……。そりゃ、どういうことだッ!!」

一方通行「何度も言わせンじゃねェよ。聞き間違いを確かめられるヤツもいねェ状況で」

 壁に拳を打ち付けている垣根は、血走った眼で一方通行を睨む。

 対する一方通行は平然としていた。

一方通行「初春ってガキが行方不明。聞き間違えてねェだろ?」

垣根帝督「俺が聞きてえのは、そんなことじゃねえんだよコラ」

 一方通行に駆け寄った垣根は胸倉を掴み上げる。

垣根帝督「そんな状況が昨夜の内に分かってたんなら、何で俺に報告しねえんだ!!」

一方通行「…………」

 掴まれた胸倉を、一方通行は乱暴に解く。

一方通行「報告したらどォした? テメェは直ぐにでも飛び出しただろォが」

垣根帝督「ったりめえだッ! 今からじゃ遅すぎると思ってるほどなんだよッ!! よりにもよって初春がいなくなったってのに、のん気に爆睡してた自分をブチ殺してえくれえだ!!」

 ガッシャーーンッ! と今度は窓ガラスを粉々に砕き散らす。

 拳の皮膚が裂け、鮮血が散る。

 しかし、今の垣根に痛みを感じる余裕はない。

垣根帝督「もう隠し事はなしだ。絶対だ! だから今すぐ教えろッ。分かってること全部だッ!!」

一方通行「落ち着けっつーの、クソメルヘン。キャラ崩壊にも程があるぞ」

垣根帝督「黙りやがれッ!! こんな時に自分自身を保ってられるほど単純馬鹿じゃねえんだよ!!」

 激怒する垣根は気持ちの整理が出来ていない。

 自分は何に腹を立てているのか。

 大事なことを伝えなかった一方通行?

 この事件を起こしている犯人?

 風紀委員でありながら事件に巻き込まれた初春?

 こんな事件が起こることを了承している学園都市?

 何かが起きなければ動けない、まるで無力な新生グループ?

一方通行(………違ェな。誰だって、自分のことは棚上げ…ってか)



 垣根は、ただただ自分が許せなかった。



 一方通行に当たり散らすのは間違ってる。

 一方通行は垣根を思って、あえて報告しなかったのだ。

 そんなことは分かってる。理解してる。

 でも、この腹立たしさは抑えきれない。

垣根帝督「ーーーッ!! クッソッタレがあああああッ!!!!」

 バァン、と一方通行を突き飛ばして走り去る。

 第177支部から飛び出していった垣根を、一方通行は追わなかった。

一方通行「…………もォイイぜ」

 そう呟くと、白井の空間移動で全員が姿を現す。

白井黒子「お疲れ様ですの」

一方通行「……おォ」

海原光貴「大丈夫ですか? さぁ、掴まってください」

 差し伸べられた海原の手を掴み、一方通行は立ち上がる。

上条当麻「ほら、杖も。ったく、無茶しやがって」

一方通行「アイツにだけは刺激が強すぎる情報だ。だからこそ、先延ばしにするしかなかった」

花一籠目「で、でも……。早く教えなかったから、余計に怒らせたんじゃ……」

 一方通行の呟きを聞いてここに来れた以上、花一たちも会話の状況は分かっているのだろう。

 垣根の怒号が効いたのか、花一は涙目だった。

土御門元春「いや、そういう“考えさせられる要素”を残した方がいい。垣根も、そこを必ず考えるはずだ」

花一籠目「……? 考えさせられる、要素……?」

 土御門の言葉を反復し、その意味を考える。

白井黒子「“どうしてああしたのだろう”、“何故こうしたのだろう”と考えられることを残す意味でしょう。今回の場合は?」

花一籠目「えぇっと……。ど、“どうして一方通行さんは、垣根さんにだけ報告をさせなかったのだろう”……ですか?」

海原光貴「正解ですね」

 缶コーヒーを探す一方通行だが、見つからなかったのか舌打ちをする。

 ガシガシと頭を掻きながら花一に答えた。

一方通行「その点に関しちゃ問題ねェだろ。多分、アイツも頭じゃ理解してンだ」

海原光貴「ですが、怒れる感情をどうしても抑えられなかった。その結果が、今の垣根さんですね」

 花一は、垣根が走り去った方角をスッと見据えていた。
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