とある学園の死闘遊戯 罪
□第05話 障害
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スヴィル=ペァゴーマが二人いた。
空波の奇襲によって倒されたのは、間違いなくスヴィルだ。
だが、その奇襲と同時に上条たちの背後に現出したのもスヴィルだ。
第十三学区。
今現在、この場所にはスヴィルが二人存在している。
スヴィル「痛っつー……」
空波陸「ーーーッ!!?」
状況の整理に戸惑っている中、空波の真横から声が聞こえる。
もぞりと動き始めたそれを確認する前に、空波の首が何者かに締め上げられる。
空波陸「ーーーがッ!!」
スヴィル「痛かったじゃないか。あー、ビックリした」
ジタバタと苦しげにもがく空波の首を掴んでいるスヴィルは、額から血を流しつつ起き上がる。
ダメージはあるようだが見た目だけだ。
スヴィル本人は堪えている様子が見られない。
土御門元春「空波!」
黄泉川愛穂「どういうことじゃんよ……。なんで……」
スヴィル「“何で二人いるのか”、か?」
背後から聞こえる声も間違いなくスヴィルのものだ。
振り返れば、そこには見た目も無傷のスヴィルがいる。
上条当麻「これも、テメェの能力……いや、魔術か?」
スヴィル「異能だと思うなら俺に触れてみろよ」
目と鼻の先にいるスヴィル。
本当に触れて良いのか?
何か、予期せぬ事態に陥ってしまうのではないか?
今までが異常な展開の連続だったせいか、上条はスヴィルに触れることを拒んだ。
土御門元春「お前が異能の力を有しているかは知らんが、一つだけはっきりしたことがあるな」
スヴィル「へぇ〜、それは?」
バァンッという発砲音が響き、後ろ手に隠していた土御門の拳銃が火を噴いた。
銃弾は空波へと向かい、その首を掴んでいるスヴィルの手首を撃ち抜いた。
スヴィル「お?」
空波陸「ーーーあッ!!」
呼吸困難から解放された空波が地に腰を着き、激しく咳き込む。
スヴィルにダメージがあるかは相変わらず分からないが、その手首からは出血が見られた。
土御門元春「お前は奇襲や不意打ちに弱いらしいな。今まで、どうやってお前を倒さなきゃならないのか分からずにいたが、ようやく難題の答えを見つけた気がするぜい」
スヴィル「…………」
スヴィルは何も言わなかった。
しかし、その表情を読み取ることは出来た。
スヴィルの表情は、明らかな“呆れ”が浮かんでいた。
スヴィル「………は、はは…。あっははははは! 俺自身にダメージが及んでいるかも分からないのに。よくそこまで自信が持てたなぁ、土御門」
土御門元春「……その顔とその声で、俺の名を口にしてほしくねぇな」
そこで、上条が不意に前に出る。
スヴィルはもちろん、黄泉川と土御門も何事かと押し黙った。
上条当麻「第十三学区にいなきゃ俺たちが損をするって言ったな。それはどういう意味だ?」
スヴィル「…………聞きたい?」
そう答えたスヴィルだったが、焦らすつもりはないらしく上条の答えを待つ前に話し出していた。
スヴィル「正確に言えば、この場所にいる意味があるのは“上条当麻だけ”だ。その他に重要なエフェクトは存在しない」
ならば、土御門や黄泉川はおまけなのだろうか。
しかし、上条当麻だけが必要ならば次の行動は決まっていた。
上条当麻「黄泉川先生、土御門。悪いけど先に第十五学区に向かってくれ」
黄泉川愛穂「……どうするつもりじゃん?」
上条当麻「俺がここを動いちまったら、俺たちにとって利益がなくなる」
土御門元春「スヴィルが嘘を言ってるとは考えないのか?」
上条当麻「それも考えてるさ。だから、俺がここに残る意味を探す。何も見つけられなけりゃ、俺も第十五学区に向かうさ」
上条が第十三学区に残り、土御門たちが削板が姿を消した第十五学区を目指す。
事の方針を決めた時、そこで初めて気がついた。
目の前にいたはずのスヴィルが、もう一人の自分も含めて何処にもいなくなっていた。