とある学園の死闘遊戯 罪

□第06話 代役
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 第九学区内を二人の少女が駆け巡る。

 工芸や美術などの学校が多く存在する第九学区では、平日も休日も外を歩く者は少ない。

 二人の様子を見る者がいたならば、まず間違いなく不審に思うだろう。



 何故ならば、二人とも顔に痣を作り、血を流しながら走っていたのだから。



白井黒子「お、お姉様! お待ちになってください! もう少し落ち着ければ演算できますの! すぐにわたくしの空間移動で……」

御坂美琴「『落ち着きたいけど今は無理! とにかく逃げて、体勢を立て直すしかないわよ!』」

 二人の後ろから、大きな足音が近付いてくる。

 距離が縮まってきている。

御坂美琴(……まずいッ)

 白井の手を引きつつ、後ろを振り向いた瞬間に電撃の槍を放つ。

御坂美琴「『はああああああああああああああああああああッ!!!!』」

 勢いよく撃ち出された電撃の槍は、真っ直ぐとはいかずも後ろの人物に直撃する。

 しかし……。

イーラァ「……フシュー…ッ……」

御坂美琴「『ーーーなッ!!?』」

 後ろの男、イーラァにはまるで効いていない。

 それどころか、速度も落ちていないため一気に美琴の眼前に踊り出た。

 そしてその勢いを殺すことなく、ラリアットのように美琴の顔面を殴り飛ばした。

御坂美琴「『ーーーが……あ…ッ』」

 鼻が折れて血が噴き出す。

白井黒子「ーーーお姉様ぁぁああああ!!!!」

 倒れゆく美琴の体を慌てて支える白井。

 しかし、イーラァが白井の頭部を狙っていると気付いた時には既に遅く、もう拳が迫っていた。

白井黒子「ーーーヒィッ」

 だが、それが直撃することはなかった。

 真横から飛んできた不可思議な勢いを持つ空き缶が、白井を狙っていたイーラァの拳を弾いて反らさせたのだ。

イーラァ「…………」

白井黒子「……え……あ…?」

 恐怖と一時の安堵から腰が抜けてしまった白井がへたり込む。

 すると、この場所とは似ても似つかない人物が建物の影から姿を現した。

????「まったく……、近頃様子がおかしいと思って後を着けてみれば、とんでもない野蛮人とお戯れのようですこと」

白井黒子「……あ、貴女は…!?」

????「ですが……、そこの殿方!」





婚后光子「その方々を、この婚后光子の友人と知っての狼藉ですの!?」





 常盤台中学の制服を着た、豪奢な扇子を手放さない少女。

 “トンデモ発射場ガール”の異名を持つ、大能力(レベル4)の空力使い(エアロハンド)。

 婚后光子の姿がそこにあった。

婚后光子「お顔の傷は淑女にとって永遠の傷物ですわよ? 白井さん」

白井黒子「………どうして…ここ、に…」

婚后光子「先ほども申しましたが、近ごろ様子がおかしく映りまして。後を着けさせていただいたのですわ。まぁ、途中道に迷いましたけd」



白井黒子「そんなことを言っている場合ではありませんの! 早くお逃げになってください!!」



 先ほどの不可思議な空き缶は、婚后の能力によって飛ばされた物だろう。

 あのイーラァの拳を反らすことが出来た以上、大能力者の名は伊達でないことも窺える。

 だが、相手がトリックスターであることが、この戦場で唯一の問題点だった。

 白井の叫びの意味を理解する前に、婚后の眼前へとイーラァが一瞬で迫った。





 ミシリッ! と重く鈍い音を響かせながら、イーラァの拳が婚后の腹部に減り込んだ。

 パァンッという、発砲音のような破裂音のような乾いた音が続いた瞬間、口から多量の血を吐き出しながら婚后が膝から崩れていく。





婚后光子「ーーーぷッ!!? あ、あがッ!!!?」

白井黒子「婚后さんッ!!!!」

 うずくまる婚后は、激痛が治まらない腹部を必死に抑えつつ止まらない血を吐き続けている。

 殴られた勢いであばら骨が折れ、更に胃などの臓腑が破裂したのだろう。

 次々と巻き起こる悲劇に涙する白井へと、イーラァが静かに近寄ってきた。

 この時の白井は、ただただ無力だった。
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