Ib 〜If art〜

□第00話 絵画の器
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 ボコボコと浮かび上がる泡。

 ザアザアと荒く吹き抜ける風。

 英国・イギリスの街中で、特定の人間しか感じることの出来ない異様な気配が駆け巡った。

 ある者は喜びを。

 ある者は怨みを。

 ある者は憂いを。

 ある者は驚きを。

 各々が抱く数多の感情と感想、そして真実をその身に感じて気配を受け取る。







 コホコホと咳き込む少女。

 茶色い通学鞄を両手に握って登校していたイヴは、口に当てていた手を見つめた。

イヴ「………また…」

 その手にあったのは、小さな石ころのような物。

 見方によっては植物の種にも見えるそれは、最近になってイヴの口内から次々と出現する。

 明らかに異常だ。

イヴ(……何なんだろう…。変な病気だったら、ヤダなぁ……)

 憂鬱な気分で学校に向かう。

 まだ、喉が苦しく咳き込んでしまう。







 バスに乗っていた男性、ギャリーは手や腕にムズムズとした痒みを覚えた。

 目を向けて見ても、何らおかしな様子は見られない。

ギャリー(あら、虫刺されでもないのね……)

 この時は対して気になることもなく、そのまま走りゆくバスに身を委ねた。

 まだ、手や腕が少しだけムズムズした。







 ギャリーのアパートにて、ギャリーの住まう部屋の中。

 真っ白なキャンバスが置かれた寝室の寝台の中、頭から掛布団を被った少女がいた。

 その少女、メアリーは少しだけ震えているようだった。

メアリー「………大丈夫…。きっとこれは、武者震いだもん……」

 自分に言い聞かせるように、ブツブツと独り言を呟いていた。







 ゲルテナ・ワイズの展覧会。

 友達を欲したメアリーが招いた、悪夢の美術館脱走劇。

 その場所から無事に帰還したイヴとギャリー。

 そして、二人の力で現実世界を生きることが許されたメアリー。

 彼・彼女たち三人の、想像もしていなかった悪夢の第二幕が。



 この現実世界で、始まろうとしていた。

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