Ib 〜If art〜
□第01話 午後のお茶会
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アイファンズ家。
広く名が通っているわけではないが、知る人は知るそれなりに裕福な家柄。
その家に住まう愛娘のイヴは、まだ小学三年生と幼いが、根のしっかりした子だ。
イヴ「行ってきまーす」
ジュディ「行ってらっしゃい。気をつけてね」
母のジュディが玄関先で返答する。
イヴは、ここらでも名門の小中一貫校に通っているが、生憎と今日は日曜日だ。
何処に行くかと言えば、イヴは“友達の家”だという。
しかし……。
ジュディ「まったく……。ギャリーさんに失礼のないようにね」
イヴ「もぉ、大丈夫だよ」
可愛らしく頬を膨らませて、家を飛び出していく。
友達の家=ギャリーのアパートというのは、既にジュディには分かり切っていることだった。
ジュディ「でも、あの子があんなに夢中になるなんて……」
その時、家の中からドタバタと音が響いた。
二階の寝室から聞こえてきた音は、階段の真上で止まるとドカドカドカと転げ落ちてきた。
日曜日なのに珍しく、イヴの父のロメオが起きてきたのだ。
まぁ、それでも今は昼時なのだが(普段は午後の夕方前まで寝ている)。
ロメオ「か、かかかか母さん! い、イヴは何処に出掛けたんだ!? 日曜日の昼から出掛けるなんて!」
ジュディ「はーいはい、さっさと顔洗って着替えてくださいな。イヴはギャリーさんのアパートよ」
ロメオ「ガッデーム!! またしても出し抜かれたか!!」
ジュディ「朝食(ロメオの昼食)が冷めるわよ」
しかし、ロメオはギャリーの存在を割り切れていなかった。
一人きりの愛娘を持つ父親なら当然かもしれないが、イヴがギャリーと出会う前のロメオを知っている方が見れば、とんでもないキャラ崩壊に映っていることだろう。
何処にでもある安アパート。
二階の右から二番目の部屋のベルを鳴らす。
“はーい”という返事が聞こえ、扉が開いた先にギャリーが顔を出した。
ギャリー「イヴ、いらっしゃい」
イヴ「ギャリー!」
バフッとギャリーに抱きつくイヴ。
これは挨拶のようなものだ。
部屋の中に入り、リビングへと足を踏み入れる。
大学生であるギャリーの部屋は、机の上以外はいつもキレイに片付いている。
すると、すぐ隣の寝室が開き、メアリーがイヴに飛び付いてきた。
メアリー「イヴー! いらっしゃい!」
イヴ「メアリー!」
お互い抱きしめ合ってキャッキャと騒ぐ。
メアリーはギャリーのアパートに居候している絵画であり、昼間はこうして現実世界に生きている。
夜になるとキャンバスに入って眠る、そんなサイクルを送っていた。
ギャリー「さて、こっちの準備も終わったし。そろそろ行きましょうか」
イヴ「うん。メアリー……」
スッとイヴはメアリーに手を差し出す。
イヴ「行こ」
メアリー「………うん」
その手をギュッと握って、イヴと一緒にギャリーの待つ玄関に向かう。
今日は、三人でショッピングに行く約束をしていた。
“三人で”出掛けるのは、今日が初めてだ。
普通の人間とは違い、元が絵画であるメアリーにとって“外”は危険が多い。
そのため、普段は家の中で大人しく暮らしていたが、今日は三人で出掛けてみることにした。
これはイヴの提案で、ギャリーも直ぐに賛成した。
メアリーに、外の世界の素晴らしさを知ってほしいから。