Ib 〜If art〜
□第02話 赤い薔薇
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月曜日。
イヴはいつもより周りをキョロキョロとしながら、つまりは挙動不審な様子で登校していた。
名門の小中一貫校“クロフトルス・オールド学院”の初等部の校舎に入り、三年生の廊下まで階段を上っていった。
教室に入ってから席に着くまで、少し早歩きになっていることにも気付かない。
イヴ「…………」
ゆっくりと鞄を机に置き、ようやく一息ついたようだ。
教室にいたクラスメイトが声を掛ける。
いつも明るい表情が印象的な茶色いポニーテールの女の子が、ジニー・プライス。
いつもポケーッとした表情にそばかすが可愛らしい茶色い天然パーマの女の子が、ネル・ティレット。
ジニー「おっはよぅ〜イヴ!」
ネル「おはよう、イヴ…」
イヴ「おはよう。ジニー、ネル」
この二年生の時に同じクラスで友達になってから、三人は今でも仲の良い友達だ。
三年生になった今でも同じクラスだったため、三人の仲は深まるばかりである。
ネル「…どうしたのかな? 今日のイヴ、何だか緊張してるみたい」
ジニー「んにゃ? 緊張ぅ? イヴ、今日って何かあったっけ?」
イヴ「え? ぅ、ううん。緊張なんてしてないよ」
ネル「そう…?」
ジニー「きっと気のせいだよ。あ、話題変わるけど……」
ジニーが何てことない話題を振ることで日常は始まる。
正直、イヴは緊張しているわけではなかった。
しかし気を張り詰めていたのは事実のため、それを緊張してるのだと誤解されたのだろう。
イヴ(………どうしようかな…)
イヴの鞄の中。
包まれたレースのハンカチの中で、昨日の夜に現れた妖精がスヤスヤと眠っている。
学校が終わり次第、そのままギャリーのアパートに向かって相談に行くつもりで、家にも置いてこれずに連れて来てしまった。
イヴ(とにかく、学校にいる間は誰からも勘付かれないようにしないと……)
ジニー「……イヴ? 聞いてる?」
イヴ「ふぇ?」
聞いてなかった者の反応である。
ジニー「………もしかして、イヴ…」
イヴ(え? うそ、勘付かれt)
ジニー「夜更かししてて寝不足なんだなー! 可愛いお顔も台無しになるぞコンチクショー!」
イヴ「うわばばばばば!!」
ネル「ジニー、イヴの目がグルングルン…」
ヘッドロックしてきたジニーに、イヴは頬っぺたを揉み揉みされる。
どうやら気付かれてはいないようだが、眠れなかったのは正解だった。
休み時間。
女子トイレの個室内で、鞄から取り出してきたレースのハンカチを広げる。
包まれていた妖精は、まだ寝息を立てて眠っていた。
イヴ「ほっ……潰れてなかった」
さらっとビックリな発言をした後、いつもの調子で咳き込んだ。
イヴ「…コホッ………、あ!」
石ころを出したところで手が滑り、石ころが便器の中に落ちてしまった。
イヴ「…あー………まぁ、いっか」
別になくして困る物ではないため、迷いなく流そうとした時だった。
石ころがパカッと割れて、中からグニャグニャと触手のようなものが這い出てきたのだ。
イヴ「ーーーヒィッ!!」
ザァーッと、思わず流してしまったが、詰まった様子もなく触手のようなものは流れていった。
イヴ「………な、何…? 今の……?」
カラーンッとベルが鳴り、休み時間が終わりを告げる。
突然のことに放心していたイヴだったが、ベルの音で我に返ると教室へと戻っていった。
イヴが出て行った個室の便器が、ゴボッと音を立てたことには気付かずに……。