Ib 〜If art〜

□第03話 青い薔薇
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 月曜日。

 イブリッド芸術大学の美術学部に通っているギャリーは、相変わらず手や腕を擦っていた。

 キャンバスに思い思いの手を描いて点を得る授業だが、手や腕の痒みが原因で絵筆は進んでいなかった。

 まだ提出期限は先なのだが、完成までに間に合うかは微妙なところだ。

ルイス「どうした、ギャリー? スランプか?」

ギャリー「違うわよ。例の痒み」

ルイス「あぁー、まだ取れないのか」

 話しかけてきたのは、ギャリーの高校三年時から友人で、名を“ルイス・ヘイワード”という。

 黒髪の天然パーマに黒縁の眼鏡が特徴で、ギャリーにとって最も長い付き合いのある友人だ。

ギャリー「おかげで絵筆も上手く握れないのよ。参るわ」

アイナ「うわー、結構つらいね。大丈夫なの?」

 話の輪に加わってきたのは、イブリッド大学で知り合った同級生の“アイナ・ソマーズ”だった。

 オレンジ色ストレートロングヘアは、陽光に照らせば輝くほど美しい反面、荒々しい抽象画を得意とするため顔や衣服は常に絵の具で汚れている。

 ちなみに、ルイスが得意とするのは風景画だ。

ギャリー「とりあえず、今日の午後には病院で診てもらう予定なの。それまでの辛抱だから大丈夫よ」

ルイス「提出日までに作品が間に合えば更に良いんだけどな」

ギャリー「縁起でもないこと言わないでよ」

アイナ「あ、じゃあ私が代筆してあげよっか?」

ギャリー「それじゃアイナの作品になっちゃうでしょ。第一、美術作品に“代筆”なんて論外よ」

アイナ「あ、そっか」

 イブリッド大学にギャリーとルイスが入ってアイナと知り合い、同じ美術学部で顔を合わせて仲良くなるまで時間は掛からなかった。

 自然に、些細な話題でも笑い合える。

 そういう環境の下、三人は集ったのだから。

ギャリー「ちょっと休憩してくるわ」

 そう言ったギャリーは、知る人ぞ知る喫煙所へ向かった。

 校舎裏にある外階段である。

ルイス「おぅ、行ってらっしゃい」

アイナ「ごゆっくりぃ〜」

 ギャリーが教室から出て行き、作品に取り掛かろうとしたところでアイナが気付く。

アイナ「……? おや?」

ルイス「ん? どうした?」

 アイナの声にルイスも反応する。

 先ほどまでギャリーが座っていた椅子の下。

 そこに手を伸ばしたアイナは、床に落ちていたものを拾い上げて呟いた。



アイナ「青い、花びら……?」



 薔薇を含め、花の飾られていない教室内。

 ギャリーの椅子の下にだけ、それは何枚も落ちていた。







 外階段へと向かう途中。

 ギャリーは昨夜の出来事を思い出していた。

 脱衣所に現れた、青い薔薇の花びら。

ギャリー(……考え過ぎかしら。まったく、トラウマを刺激されたみたいで、落ち着かないわね……)

 ギャリーは、このことをメアリーに言っていない。

 何となくだが、青い薔薇の花びらを見つけたと面と向かって教えるのは気が引けたのだ。

 それにメアリー自身も、昨日の買い物から帰ってきた後から元気がないようだった。

 今朝は普通に接してきてくれていたが、まだ“心ここにあらず”という雰囲気は残っていた。

ギャリー(とにかく今は考えないようにしましょ。腕の痒みの方が気になるわけだし)

 外階段に到着したギャリーは、煙草をライターを取り出して火をつける。

 錆びついた灰皿が置かれているが、元々は誰かの拾い物らしく、それを使わせてもらっている。

ギャリー「ふぅ〜……」

 息を吐けば、真っ白な煙が風に流れる。

 そんな時、ギャリーの背後から近付いてくる人影があった。
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