Ib 〜If art〜
□第04話 黄薔薇のお姫様
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落ち着くまで、少し時間が掛かった。
ギャリーの部屋の中で、赤い薔薇の妖精が飛び回っている。
初めは心底驚いたギャリーだが、ギャリーの手から青薔薇の花びらが出てくるのを見たイヴも気持ちは同じだっただろう。
そんな二人の異常状態を、メアリーは真剣な表情で黙って見ていた。
イヴ「………メアリー。メアリーは、何か知ってるの…?」
メアリー「………ごめんね、イヴ…。イヴの石ころも、ギャリーの花びらも……。きっと、私のせいなんだ……」
ギャリー「ん〜…。それじゃあ、アタシたちには分からないわ。ゆっくりで良いのよ。詳しく話して」
あくまでも、ギャリーは優しくそう言ってくれた。
責めたりしないのは分かっているが、その言葉で更に優しさを感じる。
自分の身に起きていることが怖くて仕方ないはずのイヴも、今はメアリーの話に落ち着いて耳を傾けようとしてくれている。
人間て、こんなに温かいんだ……。
そう思ったら、涙が溢れてきた。
イヴ「メアリー……」
メアリー「ごめんなさい、イヴ……。ちょっと、待って……ッ」
涙が止まらないメアリーを、イヴはまた優しく抱きしめてくれた。
ギャリーもメアリーの手を握ってくれる。
今度はメアリーが落ち着いて話せるまで、イヴたちが待つ番である。
ギャリーが用意した紅茶を飲んで、メアリーは少しずつ話し始めた。
時は、あの美術館の中にいた日まで逆上る。
メアリー「私は、お父様(ゲルテネ・ワイズ)の“メアリー”って作品が実体化した絵だった。今は、イヴとギャリーの作品だけどね」
ギャリー「あら。なら今のメアリーは、アタシとイヴの子供ってことになるのかs」
イヴ「ウブボッフォッ!!!!」
“なるのかしら、なんてね”という前に、イヴが盛大に紅茶を吹き出した。
ゲホゲホとむせ返るイヴの背中を赤薔薇の妖精が撫でる中、ギャリーとメアリーは急々とタオルで掃除する。
メアリー「ギャリー、ちょっと自重して」
ギャリー「え? えぇ、はい……」
落ち着きを取り戻して、再び話の軸を戻す。
メアリー「私以外の作品は、あっちの世界で花占いをしたりして遊ぶことを好んでたけど。私は外の世界で遊んでみたかった。それが夢だったの……。友達も欲しかった」
イヴ「じゃあ、メアリーの夢は叶ったんだね」
天使のような笑顔を見せてくれるイヴを見て、またメアリーは涙腺が緩みそうになる。
それを堪えて、話を続けた。
メアリー「私が外に出るには、外の世界の人と入れ替わらなくちゃならなかったの。だから、ゲルテナの展覧会が開かれる度に、私は人を“あの美術館”に招待した」
ギャリー「そっか……。そういえば年に二回くらいのペースで、イギリス各地で開かれてたんだっけ。でも、その度に人を呼んでたなら、アタシたちが“あっち”に行った時……」
そこまで言って、ギャリーはハッとした。
今まで何度も開かれていたゲルテナ展において、その度にメアリーは人を呼び込んでいた。
外の誰かと入れ替わるために。
しかし、イヴとギャリーが美術館に来た時、メアリーはまだ“あっち”にいた。
今まで“あっち”を訪れた人々は、どうなってしまったのか。
そして、イヴたちは“あっち”でどのような思いを経験したのか。
その答えなど聞くまでもなかった。
メアリー「私以外の作品たちは、花占いが大好きだったの。そして、美術館内を歩き回ることを一つの遊戯として位置付けた“桃色の蛇”が薔薇を持たせるようになった」
イヴ「それが、私やギャリーが持ってた薔薇なの?」
メアリーは静かに頷いた。
メアリー「作品たちは、私が外の世界から呼んだ人たちの薔薇を狙って競争するようになった。外の人たちは、薔薇を守りながら美術館の出口を探して、私はその間に誰かと入れ替わって外に行く。そういうやり方で、今までも美術館の中を走ってたの」
ギャリー「ち、ちょっと待って。今のところ、持たされてた薔薇や、作品たちが襲ってきた理由。それからメアリーが外に出るための方法までおさらい出来たわ」
今のメアリーの説明を、簡単にまとめて話すギャリー。
ギャリー「でも、やっぱりはっきりと聞きたいことが二つあるわ。それが何かは、分かるわよね?」
メアリーは、ギャリーの言葉に頷いた。