Ib 〜If art〜
□第05話 神様
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火曜日の夜。
学校から帰ってきたイヴが、家族と一緒に夕飯を食べている時の話だ。
ジュディ「明日?」
イヴ「うん。明日、ギャリーと出掛けてくるんだけど、帰りは遅くなると思うの」
ガチャン、とナイフを取り落とした父・ロメオを、母・ジュディは無視して会話を進める。
ジュディ「あら、そうなの。もしかして遠くまで行くのかしら?」
イヴ「うん。ちょっとした旅行みたいな感じ」
カタカタカタカタと全身を揺らしつつ、震える手でカップを握る父・ロメオを無視して、母・ジュディはイヴと話し続ける。
ジュディ「良い子にしてるのよ。あまり迷惑にならないようにね」
イヴ「大丈夫だよ。だってギャリーだもん」
ジュディ「まったく、イヴったら」
パリンッとカップの取ってを握り割った父・ロメオの手が出血しているにもかかわらず、母・ジュディは片付けに取り掛かる。
イヴ「……あ。もしかしたら本当に遅くなっちゃうかもしれないから、帰る時には連絡するね」
ジュディ「いいじゃない、その時はギャリーさんの家にでも泊まっていったら? なんてね」
イヴ「もう、お母さん!」
バンバンバンとテーブルに頭を打ち付ける父ロメオを無視して夕飯の片付けを済ませた母・ジュディは、ようやく口を開いたロメオに返答する。
ロメオ「……母さん。殺人用ライフルってどこに売ってたっけ?」
ジュディ「寝言なら眠ってから言ってくださいな」
自室に戻っていったイヴには聞こえない夫婦会話。
明日は、祝日である。
水曜日。
国内バスの停留所にて、イヴとギャリーは待ち合わせしていた。
イヴ「お待たせ、ギャリー」
ギャリー「大丈夫よ。ちょうど今来たところだから。アタシも、バスもね」
そう言うと、イヴたちの前でバスが停車した。
それに乗り込むと、直ぐにバスは走り出した。
イヴ「ギャリー。メアリーは?」
ギャリー「……やっぱり、行けないって」
イヴ「……そっか」
イヴたちが向かう先は、イヴたちが暮らしている街よりも少し離れた場所。
そこにある花屋の経営者“カティ=グレイ”に会いに行くのだ。
かつて“あっち”に迷い込み、赤い薔薇を手にして脱出した女性。
恐らく、イヴと同じ薔薇の力を持っている人。
メアリーは、カティに会うのを拒んでしまった。
ギャリー「やっぱり、今更どんな顔して会えばいいのか分からないんですって……。カティさんが“あっち”を出たのは何十年も前だけど、絶対にメアリーのことは覚えてるでしょうから……」
イヴ「……カティさんも、会いたいって思ったり、してくれてないかな……?」
ギャリー「それは分からないわ。でも、そうだと困るわね」
イヴ「え? どうして?」
ギャリー「きっと、メアリーを強引にでも連れてくれば良かった、って後悔するからよ」
ニコッとイヴに笑いかけるギャリー。
二人を乗せたバスは、目的の街へと走っていく。
イブリッド芸術大学。
ギャリーの友人であるルイスが、風景画を早く完成させたいがために大学を訪れていた。
実際、休日だろうと祝日だろうと大学を訪れる者は少なくない。
ルイス「えーっと、今日中には少しでも完成形に近付くかな……」
????「頑張ってるみたいね」
不意に声を掛けられて振り向けば、イブリッド大学の紅一点・ウルスラ(アーシュラ)准教授が立っていた。
ルイス「ああああ、アーシュラ准教授!! お、おおお、おはようございます!」
ウルスラ「うふふ、そんなに緊張しなくてもいいのに」
作品を描いているのを見られることへの緊張を指しているのだろうが、本人は別のことに緊張してしまう。
その容姿はもちろん、性格から何もかもが完璧な美しさを持っているアーシュラを前に、緊張しない男性はいない。
あ、ギャリーがいたか。
ウルスラ「あら、今日はアナタ一人なのね。いつもはギャリーちゃんやアイナちゃんがいるのに」
ルイス「あ、き、今日はギャリーの奴、出掛けるとかで家を開けるらしくて。えっと、アイナも、今日は大学には来れないって……」
いつものように上手く話せず、カッコ悪いと思いつつアーシュラへと視線を移す。