Ib 〜If art〜
□第06話 二つの始まり
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イヴとギャリーは、カティが口にした力の名称を復唱した。
イヴ「“アフロ、ディーテ”……」
ギャリー「“美しい女神”って、どういう意味なんですか……?」
カティ「うふふ、そのままの意味ですよ。神様のような、そんな力なんですから」
先ほど生み出された妖精や、巨大な薔薇。
それらはまるでカティを主のように思っているのか、とても大人しく静かに構えていた。
カティ「まぁ、この子たちも初めは扱い辛かったんですけどね。咳がなかなか止まらなくて」
イヴ「…あ……」
カティ「お嬢ちゃんにも思うところがあるみたいね」
イヴはコクリと頷いた。
咳が辛くて石ころを吐き出すことは何度もあった。
カティ「あの美術館から帰ってきた人には、薔薇の力は必ず宿るの。そして誰でも、初めは力を扱うことが出来なくて苦しむことになるのよ」
イヴが咳払いに悩んだように。
ギャリーが手や腕の痒みに悩んだように。
カティ「そういえば、そちらのお兄さんも薔薇の力を?」
ギャリー「え? えぇ、青い薔薇なんですが……」
カティ「そうなの。でも、ごめんなさいね。私も赤い薔薇の力しか知識がないの」
ギャリー「いえ、構いません。もしろ、その方がイヴに時間を割けますし」
そう言ったギャリーは、カティに頭を下げてお願いした。
ギャリー「カティさん、お願いです。どうかイヴに力の使い方を教えてあげてはいただけないでしょうか……」
イヴ「え、ギャリー……そんな」
カティ「……そんなこと、お願いされるまでもないわ。頭を上げてください」
ギャリー「…ありがとうございます」
イヴに視線を移し、頭を撫でてあげながらギャリーは言った。
ギャリー「良かったわね、イヴ。薔薇の力を使いこなせる様に頑張るのよ」
イヴ「……うん!」
少し戸惑いや不安が窺えたが、イヴは決心したように力強く頷いた。
イヴ「カティさん、宜しくお願いします」
カティ「はい、頑張りましょうね」
こうして、イヴの薔薇の力に対する扱い方の伝授が始まった。
カティ「あぁ、そうだわ。ギャリーさんに一つ」
ギャリー「はい?」
カティ「申し訳ないんだけど、一時間くらいでイヴに基礎は教えられるわ。その間だけ、お店を頼んでもいいかしら?」
ギャリー「…はい、分かりました」
バイトの経験もあったギャリーは、接客業には慣れていた。
この店での決まりを大まかに教わったギャリーは、そのまま表へと歩いていく。
カティ「さて、私たちも始めましょうか」
イヴ「はい!」
これから約一時間、イヴは自分の力の基準を知ることになる。
表で店を任されてから約十五分。
この店に入ったお客は五人ほどで、会計を済ませたのは三人ほどだった。
ギャリー「……これほどの花屋でも、売れ行きは大差ないのね」
見た目の美しさからして、とても評判なのかもと思っていたが、予想に反して普通の花屋と変わらぬ売れ行き。
まぁ、日常で花束が必要になる人が頻繁にはいないというだけかもしれないが。
と、思っていた間に二人のお客様が来店してきた。
ギャリー「いらっしゃいませ」
二十代くらいの女性と、四十代くらいの男性だった。