Ib 〜If art〜

□第01話 最悪な招待客
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 ウルスラがメアリーを連れ去った一件から、二日が経過していた。

 ウルスラは、空き巣と窃盗の犯行を認めて警察に名乗り出た。

 昨日にルイスからキャンバスも受け取り、ギャリーのアパートも無事に警察の捜査が終わった。

 これで、今まで通りの日常がやっと帰ってきたのだった。



 そして本日、日曜日の午後。

 ギャリーのアパートにて部屋のベルが鳴り響いた。

ウルスラ「こんにちは〜♪」

ギャリー「…………」

 警察に出頭したのは、確かに一昨日のことだったはずだ。



 ウルスラ曰く“罰金払って無事出所♪ てへぺろ☆”とのことで、両親にかなり叱られた後に解放されたとのこと。

 反省の色が見えていないように映るかもしれないが、その点は問題ない。

 しっかりと目に見える変化も確認できた。

イヴ「はい、アーシュラの番。引いて引いて」

ウルスラ「むむむ……。これだ! ぁ……」

メアリー「その顔、ジョーカーだったんだね」

ウルスラ「んも〜! はい、メアリー! ババ引いちゃれい!」

 仲良くトランプでババ抜きをやっている様子は、もはや同年代の遊び風景。

 子供とか大人とか関係なく、ウルスラはイヴたちの前でだけ本心で接してくるようになった。

 つまり、友達になれていた。

ウルスラ「ぃやったーぁ! あっがり〜♪」

イヴ「あ……ババだ」

メアリー「ってことは……、これだ! イェ〜イ! 私も上がりぃ♪」

イヴ「……わ、わんもあ! ぷりーず!」

ギャリー「もう一回やる前に、少し休憩しましょ。紅茶が入ったわよ」

 ギャリーが人数分の紅茶とマカロンを持って皆を呼ぶ。

 その声に、まるで園児のように大人しく従う三人だった。







 むしゃむしゃとマカロンを食べていた最中。

 ふとギャリーは、ウルスラの薔薇の力を話題にした。

ギャリー「アーシュラの薔薇は、白薔薇だったわよね?」

ウルスラ「うん。薔薇の力は“無邪気な本心(プレイング)”って言って、前に見せたツルを操れるの」

 ちなみに、あの一件があってから二人は接し方を変えている。

 ギャリーは敬語からタメ口に変え、呼び名も“アーシュラ”と改めた。

 ウルスラも物静かな大人を演じるのではなく、今まで押し殺してきた中身の幼い自分自身を前に出して接している。

 もちろん、これはイヴたちの前でだけ。

 イブリッド大学内では、今まで通りの関係と接し方で通している。

ウルスラ「ギャリーくんは“奇跡”だったよねぇ。私は“純潔”を司ってるの」

メアリー「何だかアーシュラらしいね」

 もうメアリーも、ウルスラを恐れることはない。

 恐ろしい目に遭わされたが、もう今は大事な友達の一人だ。

ギャリー「ところで、メアリー。一つだけ聞いておきたいことがあるんだけど……」

メアリー「…? なあに?」

 この楽しげな雰囲気の中で聞くには抵抗があったが、皆が揃っている休日の明るい内に知っておくべきこともあると思った。

ギャリー「アーシュラみたいな人が、他にもいたんじゃないの? もし覚えがあるなら、また今後もメアリーを狙って襲ってくるかも分からないし、一応確認しておきたいんだけど」

メアリー「…………」

 それを聞いたメアリーは、マカロンを進めていた手を止めた。

 その表情は、誰か他にもいただろうか、という顔ではなく、既に心当たりがある、といった顔だった。

メアリー「………私がまだ“あっち”にいた頃。作品たちの中で“最悪なお客様(バッドゲスト)”って言葉が流行ってたことがあったの…」

イヴ「“最悪なお客様(バッドゲスト)”……?」

メアリー「今まで呼んできたお客様の中で、印象に残ったり、嫌な思い出を残していったお客様を上げてみようって話」

ウルスラ「……その中には、私もいたのよね」

 メアリーは黙って頷いた。

 ウルスラは、初めて本心を曝け出して自由に遊べる環境が整った“あっち”で大暴れした。

 所持していた白薔薇を狙ってくる作品たちを意に介さず、もしろ“そういう遊び”だと認識して作品たちと遊んだ(戦った)。

 命を奪われる苦しみや痛みですら遊びによる快感に感じ、作品を破壊し動けなくすることで勝ち負けが決まる。

 前代未聞の危険人物と見なされたウルスラは、メアリーを始めとした作品たちの手によって、唯一“あっち”から追い出されたお客様だった。
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