とある短編の創作小説
□その行動指針
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ユニ高の広大な敷地内。
休日である本日では、運動部の生徒たちの掛け声が響いていたものの他の生徒たちの姿は見られない。
そんな状況の中、二人の男女が中庭で何かを捜している様子で動き回っている。。
正確には、何かを捜しているのは女子の方だけで男子は女子の様を見て笑っているだけだ。
真奈部彩「んもう! 笑ってないでキョウくんんも捜してよぉ!」
キョウ「あァ? なんでオレがそんなめんどくせェことしなきゃなんねェんだ。つーか、オマエを眺めてた方が何倍も面白ェっつーの」
真奈部彩「この状況作った原因はキョウくんでしょ!」
ちなみに、この場にいないというだけで生徒会メンバーは全員総出で校内中を駆け回っている。
何か、とやらを捜していないのはキョウ一人だけであり、どうやらこの事態を作り出した元凶らしい。
キョウ「オレが知るかよ、バァカ。あんなモンを生徒会室に置いておく方が悪りィ。オレが手ェ出さねェはずがねェだろーが。ククッ」
キョウがニヤニヤと言い放ったその時……。
御堂十弥『おーいッ!! 見つけたぜー!!』
真奈部彩「え!?」
キョウ「…あァ?」
エントランスから校門までを捜していた御堂の声だ。
どうやら生徒会メンバーにも聞こえるように、現在校内を駆け回りつつ生徒会室に戻っていく最中のようだ。
御堂十弥『全員、生徒会室に集合っスよー!』
真奈部彩「よ、よかったぁ。御堂くん、見つけてくれたんだ」
キョウ「…チッ」
パァッ、と明るい表情を作る真奈部とは裏腹に、キョウは面白くないとでもいうような表情をしていた。
生徒会室に全員が戻った時、捜していた“それ”は真奈部の手の中にあった。
キューキューと可愛らしい鳴き声を上げている小動物、ハムスターだ。
真奈部彩「あぁ〜、よかったぁ…。ありがとう、御堂くん!」
御堂十弥「お安い御用よ! どうだ? オレのこと惚れ直しちゃった?」
真奈部彩「先輩方も、本当にお騒がせしました」
朝霧敦士「華麗なるスルーっぷり…。先輩、ナイスです」
御堂十弥「朝霧…、そこはせめてフォローしてくれ…」
真奈部が友達から預かっていたハムスターを、キョウが勝手に逃がしていたのだった。
当然、その企てが失敗したキョウは不満げに踏ん反り返っている。
キョウ「…………」
鳴神鴻「さて、キョウくん。僕たち生徒会を引っ掻き回した元凶として、何か言わねばならないことがあるのではないですか?」
キョウ「うるっせェな、メガネ。ったく、つーまんねェ」
態度を改める様子のないキョウは、ハムスターを手にする真奈部に目を向けて舌打ちする。
キョウ「チッ。オマエらなら、分からなくもねェと思ったんだがなァ……」
榊木鋭史「…どういう意味だ?」
キョウ「んなモン、彩を見れば分かんじゃねェかよ。あとはサトシに任せるぜ。じゃあな」
真奈部彩「あ、こら! キョウk」
真奈部の呼び止めも間に合わず、ヒョイッ、とチロルチョコを口に放り込むキョウ。
瞬間、キョウの目付きが一変して和らぎ、暁が帰ってくる。
羽々崎暁「…あ、あれ? 口の中、甘い……。って、まさか!?」
朝霧敦士「逃げられちゃいましたね」
御堂十弥「ったく、相変わらずの逃げ足だなー。キョウのやつ」
もはや恒例だが必死に謝ってくる暁に、大丈夫大丈夫、と返しておく面々。
真奈部彩「でも、この子に怪我もなくてよかったぁ…」
鳴神鴻「そのようですね。さて、理事長。キョウくんが起こした案件も片付きましたし、そろそろ今月の審議に……」
真奈部彩「怖かったねぇ、もう大丈夫だからねぇ」
鳴神鴻「…理事長?」
今の真奈部は、手の中のハムスターに意識が向きっぱなしのようだ。
完全に、ここが生徒会室内であることも生徒会メンバーがいることも忘れてしまっているらしく、その様子は普通の女子高生の他ではない。
御堂十弥「あちゃー、完全にオレらのこと置いてけぼりじゃね?」
榊木鋭史「…そういや、騒ぎになる前もこんな調子だったか」
朝霧敦士「今の先輩は、ぼくたちよりもハムスターの方が重大のようです……。この気持ち、一体何なのでしょう……」
キョウの言っていたことが、暁以外の面子の頭に再生される。
キョウ『チッ。オマエらなら、分からなくもねェと思ったんだがなァ……』
鳴神鴻「………」
榊木鋭史「………」
御堂十弥「………」
朝霧敦士「………」
そしてその気持ちを、キョウの言葉を知らない暁が代弁した。
羽々崎暁「な、なんか寂しい……。ていうか、悔しい……」
珍しく、誰も反論しなかったという。
真奈部彩「飼い主さんのところに戻るまで、私が守ってあげるからねぇー、よしよし」
キョウ『ハッ、だから言っただろーが。ちったァ、オレの行動の意味も考えて動けっつーの』
この場にキョウがいたら、きっとそう言っていたことだろう。