とある短編の創作小説

□夏は嫌いだ
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 夏は嫌いだ。

 アスファルトから立ち上る熱気。

 無駄に掻く汗。

 学校にも通ていない無能力者の不良に、夏休みなど存在しない。

 言ってみれば、毎日が夏や水なので変わり栄えしない。

 毎日が夏休み、などと羨ましいと思うかもしれないが、基本が退屈な日常だったならば羨ましいなんてものではないだろう。

 いたずらに時間が過ぎるだけの毎日。

 スキルアウトとして過ごしてきた日常とは、退屈に感じる時間が多かったものだ。

 浜面仕上にとって、それは“今から考えれば”一昔前の思い出のように感じていたわけだが……。







浜面仕上「……なぁ…、なにこれ…?」

 浜面は、数人の少女から渡されたメモ紙を見て呟いた。

 そこには、夏祭り、と題した計画書“のようなもの”が箇条書きで書き殴られていた。

 出店だの花火だの、夏祭りっぽいものがズラリと並んでいる。

麦野沈利「私らアイテムにもフリーな時間が取れたのよ。せっかくだから、夏休み気分で何かやろうって話になって、夏祭りがいいんじゃないか、って話」

絹旗最愛「今夜、学園都市で超行われる夏祭りに参加するため、私たちで今から超作戦会議でも立てよう、ってことですよ」

浜面仕上「作戦会議? 一体お前らは夏祭りで何をしでかすつもりだ」

滝壺理后「はまづら、普通に屋台を回るなんて面白くないでしょ? だから、わたしたちアイテム側だけのイベントを作ろうと思ったの」

 滝壺の声に合わせて、フレンダがスケッチブックを取り出す。

 相変わらずの四次元スカートぶりだ。

フレンダ「題して……“第一回、暗部の使いやあらへんで! チキチキ、優勝者には金一封! あの手この手で夏祭りを満喫せよー!!」

浜面仕上「おーい、一番肝心なイベント内容が抜けてるぞー。しかも金一封が出んのかよ」

フレンダ「結局、普通の女の子らしく夏祭りを満喫すればいいって訳よ。自分なりにね」

浜面仕上「暗部出身のお前らが言う“自分なり”ってのが一番怖ぇんだけどな……。ていうか、普通の“女の子”らしくって…俺は…?」

絹旗最愛「超何言ってんですか? 浜面はこの企画には超不参加ですよ」

麦野沈利「普通の男の子らしく夏祭りを満喫したかったのかにゃ〜ん? 百年早ぇっつーの」

浜面仕上「ちっくしょう……」

 あくまで、このアイテムイベントには浜面は不参加。

 金一封を目指して夏祭りを満喫して競うのは、正規構成員の四人だけらしい。

浜面仕上「まぁ、いいや。どうせ暗部の仕事はオフなんだろ? だったら俺は俺で勝手に楽しませてもらうぜ」

滝壺理后「はまづら、何処行くの?」

浜面仕上「女子会の邪魔しちゃ悪いだろ? 除け者様は退散するに限らせてもらうぜ」

フレンダ「結局、そういう風に拗ねちゃってる部分がキモいって訳よ。浜面は」

 この際、拗ねてねぇし、なんてツッコミは言わないでおいた。

 ツッコミを入れる暇もなく、更なる追撃が放たれたからだ。

麦野沈利「まったく…何を言ってんのよ、浜面。あんたも来るのよ…拒否権はないから」

浜面仕上「……え?」

絹旗最愛「そもそも、私たち四人だけで行ったら、誰が優勝者を超判定してくれるんですか」

浜面仕上「…………え?」







 オカルトの通用しない科学の街、学園都市。

 そんな街にも、一般的に祭りを楽しむ風習は廃れておらず、街の外と変わらない夏祭りが行われていた。

 安直に解説するなら、大通りに出店が並んでいたりする。

浜面仕上「……で? ようするに俺は、お前ら四人が普通の女の子っぽく楽しんでいる様子を見て、誰が一番満喫してたのかを判定すりゃいいんだな?」

フレンダ「そういう訳よ」

浜面仕上「帰っていいか?」

絹旗最愛「超拒否権はない、って麦野も言ってましたよね?」

浜面仕上「ちくしょう……。俺には普通に夏祭りを楽しむ時間さえ奪われたってのか……」

 夏は嫌いだ。

 人の自由時間を容赦なく奪ってくる。

 個人の都合など考えず、巻き込んでくる連中に振り回される。

滝壺理后「おまたせ」

麦野沈利「悪い。遅れちゃったわ」

浜面仕上「おぉ、二人とも…やっと来た……か………?」

 遅れて現れた麦野と滝壺。

 しかし、二人の容姿はいつもと異なっていた。

 夏祭りを歩くに相応しい姿、浴衣である。

 麦野は、藍色と紫色で大人っぽく彩られたものを。

 滝壺は、桃色と黄色を基調とした明るめのものを。

フレンダ「ふぉぉ! 結局、麦野ってばメッチャ綺麗な訳よ!」

麦野沈利「ふふん、当然でしょ」

絹旗最愛「ていうか、二人して超いきなり満喫気分ですか! 超ずるいですよ!」

滝壺理后「用意周到と言ってもらおう。これで満喫ポイントは真っ先に獲得」

浜面仕上「滝壺、何気に容赦ねぇな……」
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