とある短編の創作小説

□唯一の時間
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 アイテムの活動はハードだ。

 暗部で働いている以上、常に緊迫した空気と命の危機が隣り合わせという状態である。

 しかし、そこに生きる者たちは人間の子供なわけで。

 生き様を除けば、光も闇も関係ない。

 何が言いたいのかと言うと……。

絹旗最愛「……あー…、超しくじりました…」

 普通の人間と同様に、風邪だって引いちゃうのだ。

絹旗最愛(朝は、そんなに熱もなかったのに……。超無理しないで今日は超休んでれば良かったですかねぇ……)

 体調が悪いのは朝からだったが、酷い症状も感じなかったためアイテムの仕事に顔を出したのだ。

 今し方、任務も終わって帰宅したのだが、さすがに無理があったのか異常な気怠さが絹旗を襲う。

絹旗最愛「…ぅぅ……、本格的に超拗らせましたね…。あ…、そうだ…」

 何かしようにも、頭が働かない。

 そこで絹旗は、携帯を取り出して“あの男”を呼びつけた。







浜面仕上「で、俺が出張してきたわけですか」

絹旗最愛「超看病しなさい。異論は超認めません」

浜面仕上「断ったって無駄なんだろ? 完治した後は俺に尽くせよ」

絹旗最愛「寝言を超言ってる暇があるなら、馬車馬の如く超動いてください。あと、後者については完治したら超覚えてることですね。超仕返ししますから」

浜面仕上「へ〜いへい。もうこのやり取りにも慣れちまったよ」

 何だかんだ言いつつ、結局は世話をしてくれるらしい。

 柄にもなく台所に立ち、適当に材料を並べて調理していく。

浜面仕上「雑な卵粥で悪いな。冷めない内に少しでも食っとけ」

絹旗最愛「浜面の男料理…。しかも卵粥…。超気持ち悪いですね」

浜面仕上「お前の口は文句専用の改札口か。いいから黙って食っとけっつーの」

 その後も、掃除やら片付けやら買い出しやらで散々働かされた浜面だが、絹旗が風邪を引いて動けないのなら仕方がない。

 気が付けば、絹旗はスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。

浜面仕上「……ったく、買い物から帰ってみれば、当人は夢の中でした…ってか。ま、病人だもんな…」

 買い物袋を適当に置いておき、寝台の傍に歩み寄る。

 掛布団を直してやると、クイッと服の裾を掴まれた。

浜面仕上「お、悪い。起こしちまったか………って、あれ…?」

 絹旗の様子に変わりはない。

 まだ眠っているらしいが、浜面の服を掴んだ手は力を緩める様子も見せていない。

浜面仕上「…なんだよ……。普段はそんなキャラじゃねぇくせして…」

 絹旗を起こさないように注意しつつ、寝台に腰を下ろす。

 普段の雰囲気など感じさせない、普通の少女と何も変わらない絹旗を見て、浜面は溜息を吐いた。

浜面仕上「普段だって、もっと甘えてもいいんだぜ? 気張り過ぎなんだよ、絹旗」

 そっと髪をなでる。

 フワッと柔らかくサラサラな手触りを感じると同時、絹旗もスリスリとくすぐったそうに身じろいだ。

 見方によっては、頬擦りしようとしている小動物のように。

浜面仕上「風邪なんか早く治しちまえ。完治したら、俺に何かと仕返しするんだろ?」

 最後の方は、冗談ぽく笑って言ってやった。

 心なしか、眠っている絹旗も笑った気がした。

 緊迫した空気が常に漂うアイテムの生活の中で、唯一、ちょっとだけ甘えられる時間を体感していた。







 そして後日。

浜面仕上「…はぁ……、見事に移されちまったな…」

 浜面は、絹旗の風邪を貰い受けてしまったらしい。

 その証拠というわけではないが、まるで症状を交代するかのように絹旗は完全復活を果たしている。

浜面仕上(風邪は人に移すと治る、って話は聞いたことあるけど……とんでもねぇ置き土産だぜ…。馬鹿は風邪引かねぇんじゃなかったのかよ…)

 数秒後、自分で馬鹿と認めたことで自己嫌悪。

 まぁ、無能力者(レベル0)という烙印を意味するなら馬鹿という捉え方も正しいかもしれないが。

浜面仕上(とにかく…、今日の仕事は無事にやり遂げたんだ…。あとは帰って、ゆっくり休養を…)

 そう思った矢先、ガシッと肩を掴まれた。

 振り向かずとも分かったが、この力加減は絹旗である。

浜面仕上「何だ、絹旗……。俺は今、ものすごく体調が悪くて、早く帰りてぇんだが……」

絹旗最愛「そんなことは超知ってますよ。だからこそ、こうやって超止めてやってんです」

浜面仕上「前に言ってた仕返しのつもりなら、マジで洒落にならねぇからやめてくれ」

絹旗最愛「まぁ、仕返しの件もありますが。どちらかと言えば“お返し”と言った方が超正確です」

浜面仕上「はぁ? お返しだぁ?」

 絹旗の顔を見てみれば、ニンマリとした笑みが浮かんでいた。

 今度は、絹旗の番である。

絹旗最愛「超仕方ねぇですから、看病してやりますよ。超感謝してください」

浜面仕上「……はぁ、やれやれ」

 溜息を吐きつつも、浜面は絹旗を家へと迎え入れるだろう。

 何だかんだ言って、看病してくれると言われたのは悪くない気分なのだから。
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