とある囚人の更生記録

□第01.0話 会
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 暑い日だった。

 この世界に太陽があり、気温があることに首を傾げたいが、とにかく暑かった。

 おそらく30度は超えているだろう。

木原数多「…………」

 木原数多は、自室の寝台で横になっていた。

 熱中症を心配することはない。

 この世界では病むことはないし、死ぬこともない。



 もう、死んでいるのだから……。



 死闘遊戯の十三人の参加者。

 殺し合いにおいて、一方通行に敗北した木原は、この死後の世界で生活していた。

木原数多「あっちぃ〜…………」

 その時、木原の部屋に誰かが入ってきたらしく、出入口の鉄格子が開く音がした。

 顔を出したのは、中年男性のルームメイトだった。

島田楠男「なんだなんだ。昼間っからダラ〜ッとしちゃって」

木原数多「黙れクズ男。あっちぃんだよ」

島田楠男「楠男だ」

 島田楠男は、木原と部屋を共にしている。

 生前に何をしていたのかは知らないが、ここにいる以上、罪人なのは間違いない。

木原数多「何処行ってやがったんだ?」

島田楠男「バイト探しだよ。早く転生したいからな」

木原数多「ゴクローサン」

島田楠男「棒読みって……。どうでもいいんだな……」

 この世界では、何かして真っ当な生活を経験しなくてはならない。

 守らなかったからといって罰せられることはないが、腰に下げられた囚人番号(懲役年数)が減ることはない。

 木原の腰には“0930”と記載されている。

 つまり、このままでは最低でも930年はここにいなくてはならないのだ。

 ただダラダラと過ごしていては、減らないばかりか増えてしまうこともある。

島田楠男「今はまだ来たばかりだから実感はないだろうが、いざ転生したくなっても直ぐには出来なくなるぞ」

木原数多「言ってろ」

 島田は何か言おうとしたらしいが、ため息を吐いて出て行った。

 木原に呆れて出て行ったのかもしれないし、新しいバイト先を訪ねに行ったのかもしれない。

木原数多(真面目なもんだ……)

 汗でベトベトになったため、シャワーを浴びる。

 サッパリしたところで、また汗の染みた寝台に横たわる気にはならない。

木原数多「……チッ」

 鉄格子を開け、木原は外へと出かけた。







 木原が移動用エレベーターに向かう途中。

 一つの部屋の前を通った。

 中は薄暗く、酷く汚れていて、悪臭もあった。

木原数多(きったねぇ部屋……)

 そう思いながら、木原数多はエレベーターに乗り込んだ。
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