とある囚人の更生記録

□第02.0話 買
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 本日も晴天なり。

 死の世界に太陽がある理由を聞くのは、もうやめておこう。

 聞いたところで相手がいない上に答えが返ってくるわけでもない。

 つまり、木原数多が目覚めた今日も、やっぱり暑かったというだけの話だ。

木原数多「…………」

 気だるそうに上体を起こした木原は、いつもの白衣を着ていないことに気づいた。

木原数多(……あ〜……、そうか……)

 白衣は貸したのだ。

 川原心愛という、小さな小さな女の子に……。

木原数多「めんどくさ……」

 そう言いながらも、木原は部屋の鉄格子を開けた。

 向かう先は決まっている。

 心愛の暮らしている578号室だ。







木原数多「おーい、クソガキ! 白衣返しやがれ!」

 鉄格子の外から呼びかける。

 昨日の朝までは悪臭が漂うほど汚れていた部屋も、今となってはチリ一つない。

 まだ眠っているのか、何処かに出掛けたのか。

 住人であるはずの心愛から返答はなかった。

木原数多「……チッ」

 木原は鉄格子を蹴り開ける。

 ズカズカと中に入ると、心愛は寝台の上で眠っていた。

 木原から借りた白衣に身を包み、スヤスヤと気持ちよさそうに体を丸めて。

木原数多「…………」

 木原の行動は単純だった。

 文字通り、叩き起こした。







 ぐわんぐわん、と頭が揺れる心愛。

 頭を叩かれたと気付くのに時間が掛かったようだ。

川原心愛「……あ、おじちゃん。おはよぅ……」

木原数多「挨拶なんざ、どーでもいい。さっさと白衣返せ」

川原心愛「…………」

 心愛は、いまだに身に付けている白衣の袖をぎゅっと握る。

木原数多「殴るぞ」

 心愛は、さっと両手を頭に乗せた。

 殴られるのは嫌らしい。

木原数多「さっさと返せっつーの」

川原心愛「で、でも………」

木原数多「あァ?」

川原心愛「服……何も持って、ない……。これ、ないと………裸に、なっちゃう………」

木原数多「あっそ。そこらのロリコンにでもレイプされてろ」

 そう言った木原は、心愛から白衣を引っぺがした。

 木原の前で再び裸体となった心愛は、もじもじと身を動かす。

 寝台のシーツに包まったが、木原は動じなかった。
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