とある囚人の更生記録
□第04.0話 行
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死後の世界にも、旅行というものはあるらしい。
また、エレベーター以外にも移動手段があり、自動車も存在することを始めて知った。
何故かって? 乗ってる奴を見たことがないからだ。
島田楠男「まぁ、エレベーターの方が何処にでも行けて便利だからな」
木原数多「んで? 何処に向かってんだよ……」
島田楠男「景色のいいところ。ピクニックってのは、そういうもんだろ?」
木原数多「行ったことねぇっつーの」
島田の運転、木原は助手席。
そして、後部座席に座る少女が一人。
川原心愛である。
川原心愛「…………」
心愛は、窓の外に目を奪われているらしく、さっきから無言で見入っていた。
島田楠男「しっかし驚いたなぁ……。やりたいことを見つけたって言った時はどんな仕事かと思ったら、まさか育て親とは」
木原数多「ブチ殺すぞ。俺だって似合わねぇことは分かってんだよ」
島田楠男「いや、こういうのは“似合う・似合わない”の問題じゃない。やりたいことがあるっていうのは良いことだよ」
木原数多「………チッ」
木原はチラッと後ろを見る。
目付きはボンヤリとしていたが、何となく心愛は楽しんでいるように感じた。
木原は、先日の亜美との会話を思い出す。
木原数多(………“俺が父親に似てる”…か……。テメェを殺した親父を何故好きでいられるのか……、やっぱ親父からは虐待されなかったからだよなぁ……)
心愛は、父親に似ている木原が大好きだと言っていたらしい。
今の心愛にとって“大人”とは、虐待を“する人”と“しない人”にしか区別できないのかもしれない。
木原数多(どっちかっつったら、俺は後者だろうなァ……。ま、このガキの面倒を見るって決めたんだ。投げ出さねぇさ)
その理由に大きな意味はなかった。
木原は、好かれることに慣れていない。
その思いに、この世界限定でも答えてみよう。
そう思っただけのことだった。
ちなみに、山原亜美は……。
山原亜美「……置いてかれたーーーーーーー!!!!!!!」
一人、吼えていた。