とある学園の死闘遊戯 罪

□第03話 香水
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 美作という少年の車椅子に手を添えながら、白井は少しだけ雑談を交わした。

白井黒子「心臓の補助装置、ですか……。心臓が弱いのですか?」

美作アオイ「“今は”な。その内、回復してみせる」

 その姿を見る以上、まだまだ完治は程遠いように見えるが、少年の目には諦めが映っていない。

白井黒子「さすが高校生、と言えるのでしょうか……。目の前の現実に、真っ直ぐに向き合える強さは羨ましい限りですわ」

美作アオイ「……キミ、何か勘違いしてるね。ボクは別に向き合ったりなんかしてないよ」

白井黒子「……え?」

 疑問符を浮かべる白井に、美作は外を眺めながら答えてやった。



美作アオイ「ただ“背を向けてないだけ”なのさ。絶望的な状況に向き合わなくても、背を向けないなら進むくらいは出来るからよ」



 無心でいい。

 何も考えなくていい。

 その先に何が待っているか分からなくても、立ち止まるよりはマシだろう。

 先に進んで困ったら、その時に考えろ。

 今は、ひたすら進む。

 決して立ち止まらないように。

白井黒子「…………」

美作アオイ「これが、今のボクを動かす思考だ。簡単だろ?」

白井黒子「………ふふ、そういうのは適当というのでは? 何も考えずに進んでいては、崖から落ちても助かりませんわよ?」

美作アオイ「それ最高(サイアク)だなぁ、おい。いいんだよ、落ちたら落ちた時にまた考えりゃ」

白井黒子「“死人に口なし”という言葉はご存じかしら?」

美作アオイ「勝手に殺してんじゃねぇよ! 九死に一生を得て助かるかもしんねぇだろぉが!!」

 白井は、今の自分を考えている。

 真っ直ぐに進んでいるのか。

 それとも、何も考えずに進んでいるのか。

 または、立ち止まってしまったのか。

白井黒子(……立ち止まってますわね。間違いなく……)

 ならば、例え無心でも進んだ方がいい。

 美琴のためを思うなら、花一の友達を助けたいなら。

 先が見えなくても、今は進んだ方がいい。

 後のことは、進んだ先で考えればいい。

白井黒子(行きますわよ、白井黒子。必ず帰るために、戦場の一番、奥深くへと……)

 美作の車椅子から手を離し、白井は中庭へと移動を始めようとする。

白井黒子「いい気晴らしになりましたわ。ありがとうございますの」

美作アオイ「そーですか」

白井黒子「あまり外気に触れているようでは、お体には良くありませんわよ。早く病室にお帰りなさい」

 そう言い残して、白井の姿は一瞬で消える。

 中庭へと空間移動した白井を見送り、一人残された美作は呟いた。

美作アオイ「頭が高ぇっつーの。風紀委員だろうと、ボクに命令するなってーの……」







 再び全員が集合した病院の中庭。

 一方通行が入手した書類を広げる。

一方通行「ここ数日、超電磁砲は病院内から出ちゃいねェ。外の連中と関わった形跡もなかったみてェだ」

上条当麻「でも、携帯とかで誰かと連絡は取ってたんじゃないか? さすがに病院内だけの付き合いじゃ寂しいものがあると思うぜ? 女の子なら特に」

白井黒子「その心配はありませんわ。お姉様の性格上、わたくしや初春、佐天さんといったご友人以外とは滅多に連絡を取りませんの。ご自分の都合でしたら尚更に」

海原光貴「他人への迷惑を気に掛ける方ですからね。お優しい限りです」

 美琴の身の回りに、これといった不審な出来事は見受けられなかった。

 だというのに、美琴の様子は一変し、ついには失踪してしまった。

一方通行(まだ、何かがあるはずだ……)

 皆が一心に頭を悩ませている中、ちゃっかり輪の中に混じっていた花一が、ちらりと一方通行を盗み見る。

花一籠目「……あ、あのぉ……」

一方通行「あァン?」

 沈黙を破った花一へと、その場の皆が注目した。

 若干、気圧された花一だったが、おずおずとポケットの中の物を差し出した。

 その手には、手のひらに収まってしまうほど小さな小瓶が二つあった。

花一籠目「こ、これ……。御坂様と、ナッちゃんの病室に落ちてました……」

 中には、ピンク色の綺麗な液体が入っているようだった。
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