とある学園の死闘遊戯 罪
□第03話 香水
2ページ/4ページ
美作という少年の車椅子に手を添えながら、白井は少しだけ雑談を交わした。
白井黒子「心臓の補助装置、ですか……。心臓が弱いのですか?」
美作アオイ「“今は”な。その内、回復してみせる」
その姿を見る以上、まだまだ完治は程遠いように見えるが、少年の目には諦めが映っていない。
白井黒子「さすが高校生、と言えるのでしょうか……。目の前の現実に、真っ直ぐに向き合える強さは羨ましい限りですわ」
美作アオイ「……キミ、何か勘違いしてるね。ボクは別に向き合ったりなんかしてないよ」
白井黒子「……え?」
疑問符を浮かべる白井に、美作は外を眺めながら答えてやった。
美作アオイ「ただ“背を向けてないだけ”なのさ。絶望的な状況に向き合わなくても、背を向けないなら進むくらいは出来るからよ」
無心でいい。
何も考えなくていい。
その先に何が待っているか分からなくても、立ち止まるよりはマシだろう。
先に進んで困ったら、その時に考えろ。
今は、ひたすら進む。
決して立ち止まらないように。
白井黒子「…………」
美作アオイ「これが、今のボクを動かす思考だ。簡単だろ?」
白井黒子「………ふふ、そういうのは適当というのでは? 何も考えずに進んでいては、崖から落ちても助かりませんわよ?」
美作アオイ「それ最高(サイアク)だなぁ、おい。いいんだよ、落ちたら落ちた時にまた考えりゃ」
白井黒子「“死人に口なし”という言葉はご存じかしら?」
美作アオイ「勝手に殺してんじゃねぇよ! 九死に一生を得て助かるかもしんねぇだろぉが!!」
白井は、今の自分を考えている。
真っ直ぐに進んでいるのか。
それとも、何も考えずに進んでいるのか。
または、立ち止まってしまったのか。
白井黒子(……立ち止まってますわね。間違いなく……)
ならば、例え無心でも進んだ方がいい。
美琴のためを思うなら、花一の友達を助けたいなら。
先が見えなくても、今は進んだ方がいい。
後のことは、進んだ先で考えればいい。
白井黒子(行きますわよ、白井黒子。必ず帰るために、戦場の一番、奥深くへと……)
美作の車椅子から手を離し、白井は中庭へと移動を始めようとする。
白井黒子「いい気晴らしになりましたわ。ありがとうございますの」
美作アオイ「そーですか」
白井黒子「あまり外気に触れているようでは、お体には良くありませんわよ。早く病室にお帰りなさい」
そう言い残して、白井の姿は一瞬で消える。
中庭へと空間移動した白井を見送り、一人残された美作は呟いた。
美作アオイ「頭が高ぇっつーの。風紀委員だろうと、ボクに命令するなってーの……」
再び全員が集合した病院の中庭。
一方通行が入手した書類を広げる。
一方通行「ここ数日、超電磁砲は病院内から出ちゃいねェ。外の連中と関わった形跡もなかったみてェだ」
上条当麻「でも、携帯とかで誰かと連絡は取ってたんじゃないか? さすがに病院内だけの付き合いじゃ寂しいものがあると思うぜ? 女の子なら特に」
白井黒子「その心配はありませんわ。お姉様の性格上、わたくしや初春、佐天さんといったご友人以外とは滅多に連絡を取りませんの。ご自分の都合でしたら尚更に」
海原光貴「他人への迷惑を気に掛ける方ですからね。お優しい限りです」
美琴の身の回りに、これといった不審な出来事は見受けられなかった。
だというのに、美琴の様子は一変し、ついには失踪してしまった。
一方通行(まだ、何かがあるはずだ……)
皆が一心に頭を悩ませている中、ちゃっかり輪の中に混じっていた花一が、ちらりと一方通行を盗み見る。
花一籠目「……あ、あのぉ……」
一方通行「あァン?」
沈黙を破った花一へと、その場の皆が注目した。
若干、気圧された花一だったが、おずおずとポケットの中の物を差し出した。
その手には、手のひらに収まってしまうほど小さな小瓶が二つあった。
花一籠目「こ、これ……。御坂様と、ナッちゃんの病室に落ちてました……」
中には、ピンク色の綺麗な液体が入っているようだった。