とある学園の死闘遊戯 罪
□第06話 場所
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沈黙を破ったのは一方通行だった。
一方通行「“おにく”ってのは何なンだ?」
花一籠目「ふぇッ!?」
急な質問に、変な声を出してしまった。
しかし一方通行は気にせず続ける。
一方通行「あの丸眼鏡は“おにく”の知り合いだ、っつってただろォが。ありゃどォいう意味だ」
花一籠目「あ、あぁ……」
質問の意味を理解した花一は、少しハニカミながら答えた。
花一籠目「私の兄のことです。食べ物のお肉とは関係ないですよ?」
一方通行「ほォ。オマエ、兄貴がいンのか」
花一籠目「はい。最初は、ちゃんと“お兄くん”って呼んでたんですけど、いつの間にか“おにく”になってました」
“お兄くん”と呼ぶのも珍しと思った。
兄や姉のことを“さん付”や“ちゃん付”するのは分かるが、“くん付”は初めて聞いた。
世の中には“お姉くん”と呼んでいる弟や妹もいるのだろうか。
一方通行「その兄貴は嫌がってねェのかよ」
花一籠目「う〜ん……。最初はヤメロって言われてましたけど、最近は何も言ってきませんね」
おそらく諦めたのだろう。
花一籠目「一方通行さんには妹さんがいらっしゃるんですよね?」
一方通行「あァ?」
確か、病院内で百合子に触れた話をした気がした。
その時のことを覚えていたのだろう。
花一籠目「やっぱり、一方通行さんにそっくりだったりするんですか?」
一方通行「あー……、アイツは……」
しかし、一方通行が百合子を解説することはなかった。
その必要が無くなる存在が、二人の真後ろから顔を出したからだ。
鈴科百合子「アッくん、見ィつけたッ!」
一方通行「ーーーッ!?」
花一籠目「わわッ!!」
一方通行をそのまま女性にしたような少女が、二人の間に顔を出してきた。
一方通行「テメェ、こンなところで何してやがる……」
鈴科百合子「つれないねェ。可愛い妹が頼れる兄貴を見つけたら、脅かしてやりたくもなるじゃなァい?」
一方通行「オイ、誰か針と糸を寄こせ。小うるせェ口は縫合するに限る」
そんな会話を交わしていた百合子だが、ふと花一の存在に気付いた。
一方通行そっくりな姿に驚いている様子の花一を確認すると、ニンマリと笑って身を引いた。
鈴科百合子「ありゃまァ、付き人がいたってか。そんじゃあ邪魔者は退散するけど、小学生に手ェ出したらアウトだぜ?」
一方通行「針も糸も必要ねェ! 今すぐその口ィ引き千切ってやるぜェッ!!」
怒鳴り散らす一方通行に対して、百合子はキャッキャと去っていった。
タイミングよく、一方通行の携帯も鳴りだす。
一方通行「……土御門からか…。どォやら準備できたみてェだな」
花一籠目「…………」
一方通行は、花一へと向き直る。
その目には、この事件が終わりに近付いている雰囲気を映していた。
一方通行「失踪したヤツらを連れ帰れる保証はねェ。テメェの友達ってヤツも、助けられる可能性は100%じゃねェンだ。分かるよな?」
花一籠目「…………」
スッとベンチから立ち上がり、杖を突きながら花一を見下ろす。
こうして見ると、花一の体は本当に小さかった。
一方通行「オマエはもう帰れ。これ以上、この事件にも俺たちにも関わることはねェンだ」
花一籠目「………一方通行さんに、病院で覚悟を決めさせていただきました…」
それでも、花一は一方通行に返答する。
真っ直ぐに、自分の気持ちを。
花一籠目「私も行きます。どんな状況だろうと、自分の足で立てる覚悟は出来ています。役に立てなくても、精一杯お手伝いさせてください!」
その目にも、一方通行と同じような決意が映っている様だった。
一方通行「……チッ、勝手にしろ」
花一に背を向けて歩き出そうとする。
花一籠目「あ、待って……あぁッ」
直ぐに追いかけようとベンチから立ち上がった花一は、クラッと立ち眩みを覚えた。
しかし、倒れることはない。
一方通行「…………」
花一籠目「………あ…」
支えてくれる、真っ白な腕がそこにある。