とある学園の死闘遊戯 罪

□第08話 色欲
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 そこで一方通行は、方向転換の隣に立つ百合子に注目した。

 確か、方向転換は百合子にこう言っていた。

 くだらないことを喋るより、さっさと“能力を発動しろ”と……。

一方通行「……まさか、血流の操作をしてンのは百合子だってのか!?」

鈴科百合子「ピンポーン! 大正解!」

 方向転換の能力は、対象の能力に触れることで、その能力のベクトルに干渉して操ること。

 百合子の能力は、強能力(レベル3)の一方通行(アクセラレータ)。

 単純な演算式しか組めないものの、一人分の血流操作なら発動できる。

一方通行「なるほどなァ。血流操作の能力を、方向転換が干渉して全体に広げてるってわけか」

方向転換「ブッブー! そいつは不正解だァ」

一方通行「あァ?」

 方向転換が操作しているのは、触れた地面を伝って地に舞い落ちている羽根。

 つまりは、未元物質に干渉していた。

方向転換「その羽根の力を借りて、能力が乱反射するサークルを作り上げる。そのサークル内でデタラメに起こってるのは、コイツが発動してる血流操作の力だ」

鈴科百合子「アタシは、このサークル内で適当に能力を使ってるだけ。黒アッくんの作ったサークル内に入れば、全員が血流操作の影響を受ける仕組みなんだなァ」

方向転換「その呼び方ヤメロっつってンだろォが!」

 方向転換は、未元物質の力を操作して常識外のサークルを作り、百合子は単純な血流操作をサークル内で発動する。

 精密な演算式は全て未元物質に任せて、能力のベクトルは方向転換に任せる。

 簡単に言えば、サークル内に入っている被害者は全員死ぬことはなくなった。

 ただし、サークル事態が立派な能力(異能)のため幻想殺しは厳禁。

 更に言えば、負傷者以外がサークルに入れば血流操作の影響を受けて爆死するが、サークルに入らなければ問題ない。



 とにかく、これで被害者を見殺しにすることもなくなった。



土御門元春「……救急車を手配する。それまで頑張ってくれ」

垣根帝督「ハッ、言われるまでもねえよ」







 今度こそ、完全に手札を失ったセリーアは、絶望色に顔色を染める。

セリーア「……ぁ…あ……ぁぁ…」

海原光貴「さて、最後の最後で良いものを見せていただきました。会計の方はこちらでお間違いないでしょうか?」

 声は明るいが、顔はまったく笑っていない海原が拳銃を手にセリーアに問いかける。

白井黒子「右腕が飛ばされて隻腕になってしまわれましたね。わたくしも左腕が義腕なので、お仲間が出来て嬉しいですわ」

 微塵も嬉しそうではない声色で、白井はセリーアへと話し掛ける。

 二人の雰囲気は、怒り以外の何ものでもない。

セリーア「ヒィッ!!」

 右腕を失い、左腕も使えず、両脚を粉々にされたセリーアに、もはや逃げ道は残されていない。

 直ぐ真横で、ドスの聞いた低い声が耳元で木霊した。



一方通行「覚悟は、出来てンだろォなァ? クソ野郎ォ」



 この上ない恐怖を感じたセリーアが、最後の叫び声を響かせた。







 貸倉庫の外。

 同乗していた初春が白井と顔を合わせた時、現場に駆け付けていた風紀委員の少女が駆け寄ってきた。

 右腕に腕章を着けた、ウルフカットの黒髪を持つ私服の風紀委員。

 オシャレで体に巻いている包帯をなびかせながら、空波陸が文句を言い放つ。

空波陸「んもうッ! あんな“女の敵”って言葉を背負って生きてるような奴、アタシだって一発や二発ぶん殴ってやろうと思ってたのにぃッて、もはや死にかけで一発も殴れない現実に悔しさが治まらないアタシがいるんだけど!?」

白井黒子「それは失礼しましたの。わたくしだってお姉様を殺されそうになって頭が冷えませんでしたのよ?」

空波陸「はぁ……。女性失踪事件だけは、アタシが意地でも解決しようと思ってたのにぃ……って、とりあえずしょぼくれてみたり……」

白井黒子「でしたら早いところ連れ出してくださいな。一秒でもあの方と同じ場所にはいたくありませんもの」

空波陸「あっは、それ同感♪ って! 今からそいつを連れてくわけだから、アタシだけはそいつと同席ッ!?」

白井黒子「諦めなさいな、風紀委員のトップさん♪」

 ちくしょーッと叫び散らしながら空波が退散していく。

 と思いきや、何かを思い出したように白井の前へと戻ってきた。

空波陸「そういえば、ここにいた事件被害者って、これで全員系?」

白井黒子「はぁ……、そうですが。それが何か?」

 何はともあれ、これで本当に、女性失踪事件は幕を降ろしたのだった。
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