とある学園の死闘遊戯 罪

□第06話 暴食
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 二メートルを超える竜王が、再び目の前に現出した。

グゥラー「ーーーなッ!!? こ、これは一体ッ!?」

 上条の右手首から右腕に、右腕から右肩に。

 どんどん竜王の姿が侵入していく。

上条当麻「グゥラー! お前は“暴食”を司ってんだろ!! だったらコイツと勝負してみないか!!」

グゥラー「……何ですって…?」

上条当麻「コイツは幻想を食い物にする“暴食の竜王”だ! 本当にお前が“暴食”を名乗るなら、コイツを丸ごと食ってみろよ!!」

グゥラー「ーーーッ」

 それを聞いたグゥラーは、ゾクゾクガタガタと体を震わせた。

 そして、腹の底から笑い始めた。

グゥラー「ーーーッ。くッーーー、くくく……。あぁーーっはははっははははっは!!!! 面白いです、実にッ!! 私にとって最高級の挑戦です!!」

 ダラダラと滝のような涎を流しながら、グゥラーはスーツをぐっしょりと汚していく。

 彼にとって、あらゆるものに食い付いてみることが何ものにも代えられない喜びなのだ。

 上条とグゥラーが、同時に動き出して距離を詰める。





グゥラー「いっただっきまーーーすッ!!!!」

上条当麻「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」





 暴食と暴食がぶつかり合い、食らい付き、噛みつき合う。

 バラバラと鱗を撒き散らす竜王の顎と、噛みつかれる度に肉を削がれて鮮血を散らすグゥラー。

 交差する暴食同士の戦いが治まった時、最初に口を開いたのはグゥラーだった。

グゥラー「………勝負、ありましたね…」

上条当麻「…………」

 上条から、竜王の顎が消失していく。

 完全に消え去った時、上条の右手は元通りそこにあった。

 傷一つなく戻った幻想殺しを確かめて、上条は静かに返答した。

上条当麻「……そうだな。これで決着だ」

 竜王の顎が消失した理由は、ただ一つ。



 食事が、終わったのだ。



グゥラー「上には上が…いるものです……。美食家として、とても嬉しく…思い、ます……」

 グゥラーの体が傾き始める。

 スローモーションのように見える動きの中、上条は確かに聞き取った。



グゥラー「………ごちそうさま…でした」



 食事を終えるマナーを最後に、グゥラーは意識を手放した。

上条当麻「あぁ……、お粗末さまでした」





 こうして、暴食のトリックスター・グゥラーが巻き起こした“治安崩壊事件”は幕を降ろした。

 新生グループの手によって、行方不明だった被害者たちも無事に病院へと運ばれた。

 しかし、助けられなかった被害者も多く、その数は数十人に及んだ。

 そしてその中には、仲間の親友も含まれている。

一方通行「…………」

 一方通行は、冷たくなった親友を抱き締めて泣きじゃくる花一に、何も言うことが出来なかった。

 ただ静かに頭を撫で、そっと後ろから抱き締めてやることしかできなかった。

一方通行「…………」

 こんな時、何を言ってやればいいのか。

 何もせずに共感してやればいいのか。

 統括理事長、学園都市最高頭脳、最優秀生徒。

 一方通行は、この時ばかりは無力だった。
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