とある学園の死闘遊戯 罪

□第05話 覚醒
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 美琴の鼻血を拭き終えると、上条の携帯が鳴り始めた。

上条当麻「はい、もしもし?」

結標淡希『人のトラウマ、思い出させてくれたわね。女の子の顔を殴るなんて』

上条当麻「…………見てました?」

結標淡希『目の前でね』

 あっははぁ、と気まずい空気になるかと思ったが、結標は構わずに先を続けてくれた。

結標淡希『この件は私から一方通行に伝えておくから、二人を任せたわよ』

上条当麻「あ、あぁ……。ありがとな、結標」

結標淡希『それは私の台詞よ。二人を助けてくれて、ありがとう……』

 私には、何も出来なかったから。

 そう言い残して、結標は通話を切った。

上条当麻「……何言ってんだ。仲間を心配してやる時点で、何も出来てないはずないだろ」

 美琴をそっと抱え上げ、エツァリの方へと足を進めようとした上条は、そこで初めてエツァリの顔に気付いた。

上条当麻「……夏以来だな、その顔見るの」

 ゆっくりと、エツァリが目を覚まして優しく微笑む。

上条当麻「あ、悪りぃ。起こしちまったか」

エツァリ「いえ、大丈夫ですよ。それより……」

 チラリと美琴へと視線を向けて、またエツァリは涙を流した。

エツァリ「……ありがとうございます。御坂さんを、助けてくれて」

上条当麻「何言ってんだ。約束しただろ?」

 御坂美琴と、その周りの世界を守る。

 その約束が、目の前で証明される日が来るとは思っていなかっただろう。

エツァリ「ところで、いつから御坂さんを名前で呼ぶほどの仲に?」

上条当麻「あー……、あれは咄嗟だったからなぁ……。セリーアの時も、つい名前で呼んじまった時があったっけ」

 これがフラグ建築士の力か……。

 エツァリは状況に限らず、そう思った。

上条当麻「そんなことより、早く病院だ。一番の重傷者はお前だろ」

エツァリ「………残念ですが、自分は病院へは向かいません…。御坂さんだけを連れて行ってください」

上条当麻「なッ!? 何言ってんだ!! ガムテープでグルグル巻きにして、もう死にかけてんだぞ!!」

 エツァリは、当然ながら学園都市のIDを持っていない。

 海原のものを借りて過ごしていたが、今はそれも通用しない。

 そして仮に持っていたとしても、今回ばかりは使わないだろう。

エツァリ「自分が死にかけの重傷者だということは、自分が一番理解しています。だからこそ、病院へ行くわけにはいかないのです」

 ゆっくりと、エツァリは自分の足で立ち上がろうとする。

 手を貸すべき状況だが、あえて上条は何もしなかった。

 美琴を抱えているのが現状だが、抱えていなかったとしても上条は手を貸さなかっただろう。

 エツァリの行動と言葉には、手を貸すべき要素が含まれていなかったから。

エツァリ「間違いなく、自分は入院することになります。御坂さんを苦しめた元凶とも戦えず、病室の寝台で横になることがどれほど苦痛に感じるか……ッ」

上条当麻「…………」

 ついに、しっかりと自分の足で立ち上がってみせたエツァリは、美琴を抱える上条と向き合う。

エツァリ「トリックスターの件が片付くまで、自分は決して倒れません。安息の日々に戻るのは、全てが終わってからでも遅くはないでしょう」

上条当麻「………あぁ、分かった…。でもよ」

エツァリ「……はい?」

 気持ちの悪い汗を流して、荒い呼吸を続けるエツァリに、上条は元気よく笑いかける。

上条当麻「無理だけはするなよな。そのための仲間だ。お前、もう死にそうだぜ?」

エツァリ「………ふふ…。せめて、御坂さんの笑顔をもう一度見るまでは、死んでも死にきれませんのでご安心を」
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