とある学園の死闘遊戯 罪
□第05話 覚醒
2ページ/4ページ
美琴の鼻血を拭き終えると、上条の携帯が鳴り始めた。
上条当麻「はい、もしもし?」
結標淡希『人のトラウマ、思い出させてくれたわね。女の子の顔を殴るなんて』
上条当麻「…………見てました?」
結標淡希『目の前でね』
あっははぁ、と気まずい空気になるかと思ったが、結標は構わずに先を続けてくれた。
結標淡希『この件は私から一方通行に伝えておくから、二人を任せたわよ』
上条当麻「あ、あぁ……。ありがとな、結標」
結標淡希『それは私の台詞よ。二人を助けてくれて、ありがとう……』
私には、何も出来なかったから。
そう言い残して、結標は通話を切った。
上条当麻「……何言ってんだ。仲間を心配してやる時点で、何も出来てないはずないだろ」
美琴をそっと抱え上げ、エツァリの方へと足を進めようとした上条は、そこで初めてエツァリの顔に気付いた。
上条当麻「……夏以来だな、その顔見るの」
ゆっくりと、エツァリが目を覚まして優しく微笑む。
上条当麻「あ、悪りぃ。起こしちまったか」
エツァリ「いえ、大丈夫ですよ。それより……」
チラリと美琴へと視線を向けて、またエツァリは涙を流した。
エツァリ「……ありがとうございます。御坂さんを、助けてくれて」
上条当麻「何言ってんだ。約束しただろ?」
御坂美琴と、その周りの世界を守る。
その約束が、目の前で証明される日が来るとは思っていなかっただろう。
エツァリ「ところで、いつから御坂さんを名前で呼ぶほどの仲に?」
上条当麻「あー……、あれは咄嗟だったからなぁ……。セリーアの時も、つい名前で呼んじまった時があったっけ」
これがフラグ建築士の力か……。
エツァリは状況に限らず、そう思った。
上条当麻「そんなことより、早く病院だ。一番の重傷者はお前だろ」
エツァリ「………残念ですが、自分は病院へは向かいません…。御坂さんだけを連れて行ってください」
上条当麻「なッ!? 何言ってんだ!! ガムテープでグルグル巻きにして、もう死にかけてんだぞ!!」
エツァリは、当然ながら学園都市のIDを持っていない。
海原のものを借りて過ごしていたが、今はそれも通用しない。
そして仮に持っていたとしても、今回ばかりは使わないだろう。
エツァリ「自分が死にかけの重傷者だということは、自分が一番理解しています。だからこそ、病院へ行くわけにはいかないのです」
ゆっくりと、エツァリは自分の足で立ち上がろうとする。
手を貸すべき状況だが、あえて上条は何もしなかった。
美琴を抱えているのが現状だが、抱えていなかったとしても上条は手を貸さなかっただろう。
エツァリの行動と言葉には、手を貸すべき要素が含まれていなかったから。
エツァリ「間違いなく、自分は入院することになります。御坂さんを苦しめた元凶とも戦えず、病室の寝台で横になることがどれほど苦痛に感じるか……ッ」
上条当麻「…………」
ついに、しっかりと自分の足で立ち上がってみせたエツァリは、美琴を抱える上条と向き合う。
エツァリ「トリックスターの件が片付くまで、自分は決して倒れません。安息の日々に戻るのは、全てが終わってからでも遅くはないでしょう」
上条当麻「………あぁ、分かった…。でもよ」
エツァリ「……はい?」
気持ちの悪い汗を流して、荒い呼吸を続けるエツァリに、上条は元気よく笑いかける。
上条当麻「無理だけはするなよな。そのための仲間だ。お前、もう死にそうだぜ?」
エツァリ「………ふふ…。せめて、御坂さんの笑顔をもう一度見るまでは、死んでも死にきれませんのでご安心を」