Ib 〜If art〜
□第03話 青い薔薇
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真後ろの人物は、ギャリーの肩にポンと手を置いた。
ウルスラ「ギャリーちゃん、今は授業中のはずよ」
ギャリー「……ちゃん付けは止めてくださいませんか? ウルスラ先生」
ウルスラ「“アーシュラ”って呼んで、って私も言ってるんだけどなぁ」
現れたのは、イブリッド大学の美人准教授“ウルスラ・オリヴァー”だった。
普段からとても物静かで、学生も教授も男も女も問わず、イブリッド大学の人気者(紅一点)。
真っ白な長髪に赤い瞳を持ち、常に優しげな微笑みが更に人々の目を惹きつけていた。
本人に自覚があるのかは分からない。
ちなみに、本人は“ウルスラ”という名前を気に入っていないらしく、皆からは“アーシュラ”と呼ばれたいらしい。
ギャリー「ならお互い様ですよ。ちゃん付けを止めてくれるなら呼んでみます」
ウルスラ「分かったわ、ギャリーちゃん」
ギャリー「分かってないわね」
こんな会話は日常茶飯事だ。
ウルスラ「それより聞いたわよ。最近、作品の出来が進んでないって。何かあったの?」
ギャリー「いえ、何でもないです。ただ体調が優れないだけでして。今日の午後には病院へ行ってきます」
ウルスラ「そう。なら良いのだけど、無理しちゃダメよ」
ギャリー「ありがとうございます」
早々に煙草を吸い終わって教室へ戻ろうとした時、アーシュラがギャリーを引き留めた。
ウルスラ「ギャリーちゃん。何か落としたわ」
ギャリー「え?」
落とすほどの物は煙草やライター以外に持っていなかったと思った。
振り返ったギャリーは、アーシュラが拾い上げた物を見てビクッとした。
ウルスラ「これは……青薔薇の、花びら?」
ギャリー「ーーーッ!!?」
アーシュラの言ったことが本当ならば、その花びらはギャリーが落としたものだという。
いつも間に花びらを持ってきてしまったのか?
それ以前に、何処で青い薔薇と接触する機会があったのか?
アーシュラが呆然と立ち尽くすギャリーに何か言っているようだったが、もはやギャリーは耳に何も入っていかない。
自問自答が続いた末、ギャリーは教室に向かって走り出していた。
教室に向かう途中でも、ギャリーの頭の中は青薔薇の花びらのことでいっぱいだった。
ギャリー(どういうことよ!? 何で青い花びらが……!? 昨日のことも、偶然じゃないっていうの!?)
そもそも、昨日の花びらでさえ覚えがなかったのだ。
立て続けに起こるようでは偶然とは思えなかった。
ギャリー「……一体、何が…………え?」
頭痛まで感じ始めた頭を押さえようと手を当てた瞬間、その際に振った腕からハラりと何かが落ちて行った。
足を止めたギャリーは、バクバクと鳴る心臓を無視して思い出す。
視界の端で捉えた落ちていく“何か”は、青い色をしていた気がした。
ゆっくりと、ギャリーは後ろを振り返って落ちた物を確認する。
しかし、嫌な予想など斜め上を超えて、現実がギャリーの目に飛び込んできた。
ギャリー「……え…………?」
落ちていたのは嫌な予想通り、青い薔薇の花びらだった。
しかし、それだけではない。
まるでギャリーの走ってきた痕跡を記すかのように、何枚もの青い花びらが線となって撒き散っていた。
ギャリー「ーーーッ!!?」
ここまで来れば、もう異常である。
ギャリー「な、何よ……これッ」
後退りしたギャリーから、再び花びらが落ちた。
それだけにビクッとしたギャリーは、愛用のコートの中から花びらが落ちたことに気付く。
コートの中に青い花びらがあると思うと、ゾワッと恐怖を覚える。
ギャリー「もう、何なのよ!」