とある短編の創作小説

□SRP:妹達共鳴計画
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 深夜の学園都市。

 動研思考能力研究局内の巨大実験室にて、とある実験が行われていた。

 強化ガラス越しに、一人の女性研究者が実験室内に声をかける。

芳川桔梗『ごめんなさいね、私一人で監修して。今日は都合が悪くて、見事に他の研究者が集まれなかったのよ』

 しかし、それがどうした、とジェスチャーする実験室内の少年は鼻で笑う。

一方通行「別に構いやしねェよ。誰が欠席していようが、やるこたァ何一つ変わらねェンだ」

 ゴキゴキと首を鳴らして、眼前の実験動物を見下す。

 常盤台中学の制服に身を包み、頭には既に壊れた暗視ゴーグル。

 先ほどまで手にしていた銃器も破壊され、打つ手のなくなった一人の少女。

 理不尽な実験によって作り出された、国際法でも禁止されている、人間のクローン。

芳川桔梗『時間をかけている必要性はないわよ。次の実験に移るためにも、早く終わらせなさい』

一方通行「チッ。少しは俺を労ったらどォだ? こォ見えても、俺だってまだ高校生のお子様なンだぜ?」

芳川桔梗『学園都市の最優秀生徒。超能力者の第一位。世界最強の男の子。そんな貴方が更なる“無敵”を求めて、ただ簡単な実験を繰り返しているだけなのに、休み時間が必要なのかしら?』

 人情よりも利益を選ぶ。

 人として、優しい、など、とても言えない。

 そんな女性研究者へと一方通行は、ほんの少しだけ哀れみを向けた。

一方通行「相変わらず自分に甘ェな、芳川」

芳川桔梗『これでも自覚はしてるのよ。そんなことより、さっさと第9423次実験を終わらせてしまいなさい』

一方通行「はァいはい、分ァかりましたよっと」

 殺すことなんて簡単だ。

 デコピン一発、その額に放てば頭が爆ぜる。

 今日も今日とて、いつもと変わりなく実験が終わりを迎えようとしていた。

一方通行(…チッ……、まったく…クソつまンねェ人形遊びだぜ……)

 伸ばされる一方通行の手。

 明確に迫りくる死。

 その動作に反応したように顔を上げた実験動物は……。





 まるで真珠のような、涙を流していた。





一方通行「………あァ…?」

芳川桔梗『………ッ…!?』

実験動物「……ぅ……ふ、ぐ…ッ」

 人形? クローン? 実験動物?

 いいや、そんなものではない。

 少なくとも一方通行や芳川の目には、目の前で涙を流している“それ”は、完全な“人間の女の子”に見えていた。

一方通行「……オイ…、こいつはどォいうことだ…?」

芳川桔梗『ち、ちょっと待ちなさい……ッ。ありえない…。そんな感情データが、この子たちにインストールされているはずは…ッ』

 強化ガラスの向こう側では、芳川が慌てた様子で実験機材を操作している。

 巨大実験室内で、二人きりで待ちぼうけを食らってしまっては、一方通行もどうしたらいいのか分からなくなってしまう。

一方通行「オイオイ……ったく、勘弁してくれよ……」

実験動物「ひ……ぅぅ…、ぐすんッ」

一方通行「そンで? オマエはオマエで、何をいきなり泣き出してやがンだ? こっちの迷惑も考えろっつーの」

実験動物「……に……な…ぃ」

一方通行「あァ?」





実験動物「…ッ…死に、たく…なぃ……ぅ…ッ。ぐす……もぅ…戦いたく…な、ぃ…………、と…ミサカは……」





一方通行「…………」

 これ以上戦いたくない、という純粋な声。

 やけに脳裏へと響き渡る感覚を意識しつつ、一方通行は眼前の実験動物を……否、ただ泣き崩れている一人の少女を見つめた。

一方通行「……もォ、戦いたくねェ、だと?」

一人の少女「……ふぁい…」

一方通行「今更、死にたくねェってか? 九千回以上も殺されてきたくせに」

一人の少女「…ぅぅ……ひぐッ……ぐす…」

一方通行「…………」

 強化ガラスの向こうから、芳川の声が微かに聞こえる。

 原因は分からないが、実験の内容に支障を来たすレベルではない。

 殺してしまっても問題はない。

 そんなことを言っている気がした。

一方通行「……オマエは…クローンの分際で、生意気に“生きてェ”って言ってンのか…」

 だが、一方通行に芳川の声は届かない。

 彼の意識は、完全に目の前の少女に向けられていた。

一人の少女「…ミサ、カ……は……、生きた……ぃ……ッ。死にたく、な…ぃ……ぐすッ。もぅ……戦い…たく、ない……です……」

一方通行「……そォか」

 芳川の声は、もう何も聞こえない。

 まだ、何かを言ったり叫んだりしているのかもしれない。

 それとも、芳川も実験室内の様子を見て既に黙っているのかもしれない。

 一方通行も、もう芳川に意識など向けない。

 目の前で泣き崩れる少女に対して、今まで抱いたことのない感情が渦巻いていた。

一方通行「……そォか」



 心が、動かされたような気がした……。
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