とある短編の創作小説

□SRP:妹達共鳴計画
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 六月十二日。

 一方通行が絶対能力進化計画を外れてから一週間後。

 彼を実験という悪夢から脱出させた、といっても過言ではない少女が、彼の家を訪ねてきた。

一方通行「ったく…、マジでありえねェ…」

 ミサカ9423号。

 どういうわけか他の個体とは異なり、感情表現が豊かな様子。

 少なくとも、彼が今までに殺してきた9422人のミサカたちからは見ることがなかった現象だ。

 そのミサカは今……。

一方通行「………」

09423号「………」

 一方通行の後ろを、まるでカルガモのように歩いてくる。

 彼のシャツの端をチョイッと摘まみながら。

一方通行「……オイ、何のつもりだ?」

09423号「何処かへ出掛けるのでしょう? と、ミサカは先ほどコンビニから帰ってきたばかりなのに何故? という疑問を持ちつつ質問します」

 確かに、一方通行は大量の缶コーヒーを買って帰って来たばかりだ。

 その際にミサカと再会し、今に至っているわけである。

 芳川に連絡したところ、どうやら彼女の面倒を一時的に見ることになってしまったわけだが、考えたら頭が痛くなるので思考の片隅に置いておく。

一方通行「もうすぐ昼だろ。飯食いに行くに決まってンじゃねェか」

09423号「一方通行は料理をしないのですか? と、ミサカは実は家庭的な一方通行の一面に期待していましたのに、と失望を隠せません」

一方通行「俺がそンなことする野郎に見えるってのかよ、テメェにはッ」

09423号「…ヒゥッ」

 ギロッと睨めば、まるで小動物のように縮こまって涙目になる。

 これが、他の個体と明らかに違う点。

 ミサカ9423号は、異様に泣き虫なのだ。

一方通行(まァ…、確かにこの様じゃ、実験の継続なンざ不可能だろうな…)

 とりあえず、ペシッ、とシャツを摘まんでいたミサカの手を叩き退ける。

 その行為にまた泣きそうになっていたものの、首を振って“ついてこい”と促せば、パァッ、と表情を明るくしてパタパタとついてくる。

 完全に、厳格な父親のことが好きな一人娘の図、だった。







 第七学区のファミレス“ジュリアン”に入った一方通行たちは、店員に案内されて席に座る。

 お昼の時間帯ではあるが、少し午後の時間に傾いている今ではお客の足も少なかった。

09423号「どれにしましょうか……と、ミサカはメニューを開きつつ目を輝かせます。どれも美味しそうです」

一方通行「………」

 一方通行は、ずっと疑問だった。

 彼女たちには“ミサカネットワーク”という意思をリアルに共通させることが出来る独自のネットワーク頭脳を持っている。

 今までに一方通行が殺してきた九千人以上のミサカの記憶を持っているはずであり、それ故に一方通行がどういった人物であるのかは知っているはずだ。

一方通行「…なァ……、オマエは何で俺なンかに付きまとってンだ…?」

09423号「え?」

一方通行「俺がオマエたちに何をしてきたのか、都合よく忘れたわけじゃねェンだろ? 俺みてェな殺人鬼といるより、研究者か医者にでも世話ンなった方が理想的じゃねェのかよ?」

 その質問に、ミサカはシュンと表情を沈めた。

 よく見れば、また目尻に涙が浮かんでいる。

09423号「ミサカが……お傍に居ては、迷惑…ですか…? と、ミサカは……ぅぅ」

一方通行「…ッ! 分かった分かった! ンなこと考えさせて悪かったよ! だから泣くンじゃねェ、鬱陶しいッ」

 ぐしぐし、と目元を擦って涙を拭ったミサカは、メニューからミートソースパスタを選択した。

一方通行「それでイインだな? 店員呼ぶぞ」

 既に一方通行は注文品を決めていたらしく、さっさと備え付けのブザーを押して店員を呼んだ。

09423号「うわあッ、ピンポンが! ミサカが押したかったのにぃ、とミサカはッ!」

一方通行「ガキかテメェ」







 ミサカが頼んだパスタと一方通行が頼んだステーキが、ほぼ同時にテーブルへ到着する。

09423号「おぉ、これがパスタというものなのですね、とミサカは感激します」

一方通行「あァ? 知りもしねェで頼ンでたのかよ」

09423号「施設での栄養摂取は点滴や錠剤だけでしたので、こういった食べ物には知識があっても経験がないのです、とミサカはミサカの経緯を懇切丁寧に解説します」

一方通行「………」

 聞く人が聞けば哀れに思うような過去を、平然とした様子で淡々と話したミサカ。

 今でこそ、常盤台の制服にちょっとミートソースが飛んだくらいで涙目で慌てているような少女だが、彼女にも他の個体と同じように感情の薄い時期があったはずなのだ。

一方通行(一体…、何処でどンなイレギュラーが起きやがったンだか…)

 とりあえず、たまたま持参していたウエットティッシュで汚れを拭ってやった一方通行は、たったそれだけの行為にも嬉しそうに頬を緩ませているミサカを見て溜息を吐く。

一方通行(……調子狂うだろうが…。こンな殺人鬼を前にして、笑ってンじゃねェよ…)

 結局、ミサカの真意は分からなかった。

 退院後、どうして妹達を殺してきた一方通行の傍へとやってきたのか。

 ミサカは最後まで答えなかった。







 ジュリアンからマンションに帰った後、すぐに昼寝を始めてしまった一方通行は、しばらくして目を覚ました。

 覚ましたのだが……。

一方通行「………」

09423号「………」

 ミサカまで、いつの間にか眠ってしまったようだ。

 しかも、一方通行と同じベッドで。

一方通行「…添い寝されるような年頃でも間柄でもねェっつーの………」

 ミサカを起こさないようにベッドから抜け出し、ふと時計を見やる。

 時間帯は既に夜だったが、まだ深夜と呼べるほど遅い時間でもない。

一方通行「………」

 一方通行は、こっそりと出掛けていった。
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