とある禁書の二次創作
□Ib 〜If page〜
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下校のベルが鳴り、家へと帰りゆく小学生たち。
通い慣れた通学路を友達と途中まで共に帰り、別れてからは一人で歩き始める。
しかし、行き先は自宅ではない。
少女・イヴが目指すのは、学校から少し離れたアパートだった。
イヴ 「…………」
階段を駆け上がり、一室の前に立ってベルを鳴らす。
????『はーい』
聞き慣れた声が聞こえて、扉が開けられた。
イヴの前に立つ部屋の主・ギャリ―が笑顔で出迎えてくれた。
ギャリー「いらっしゃい、イヴ」
イヴ 「ギャリー…!」
バフッとイヴがギャリ―に抱きついた。
これは、もはや挨拶になっていた。
部屋に上がって、客間へと入った瞬間。
今度はイヴが抱きつかれた。
メアリー「イ〜ヴ!」
イヴ 「メアリー、遊びに来たよ」
キャッキャと騒ぐ二人を微笑ましく眺めながら、ギャリ―は紅茶を三人分用意する。
お茶菓子として、マカロンも忘れずに。
ギャリー「はーいはい。紅茶が入ったわよ」
イヴ 「ありがとう、ギャリー」
メアリー「良い香り♪ いただきまーす」
学校帰りにイヴが立ち寄る場所。
それは、共に悪夢の美術館を脱出してきた大切な人。
そして、心から大好きだと胸を張って言える人。
ギャリーが住まう、このアパートだった。
ワイズ・ゲルテナの美術館。
“絵空事の世界”という絵画から悪夢のような異世界に迷い込んだイヴは、同じく美術館を訪れていた男性客・ギャリーと出会った。
その世界で出会ったメアリーと共に右へ左へと危ない目に遭いながら脱出するために走り回った。
そして、実在しないメアリーの正体と豹変。
悲しくも切ない別れ。
彼女そのものを焼き切ってしまったイヴたちの胸には、あの美術館から脱出してからもメアリーのことを忘れることが出来なかった。
再会の約束。
イヴとメアリーがお互いに顔を合わせる日は遠くはなかった。
ギャリー「案外、近くに住んでいたのね。驚いたわ」
イヴ 「うん。また会えて嬉しい」
おしゃれな喫茶店でマカロンをご馳走するギャリー。
初めてのマカロンに、イヴが瞳をキラキラとさせていたのは記憶に新しい。
ギャリー(……本当に、見てて飽きないほど可愛らしいのよね)
むぐむぐもしゃもしゃと、まるでリスのようにマカロンを食べているイヴに癒されながら、ふと花壇に視線を移す。
ギャリー「……あら?」
イヴ 「…?」
ギャリーの声に、イヴも釣られて視線を向けた。
花壇に咲いていたのは、色鮮やかな薔薇だった。
その中で一つだけ、目を引き付けるものがあった。
黄色い薔薇が、茎が折れて地に落ちていた。
イヴ 「…………」
スタスタと歩み寄ったイヴが、ギャリーのところへと帰ってきた時。
その手には一人ぼっちになった黄色い薔薇が包まれていた。
ギャリー「イヴ……」
イヴ 「………」
しばらく薔薇を見つめていたイヴは、バッと顔を上げて口を開いた。
イヴ 「ギャリー、お願いがあるの」
ギャリー「……何かしら。アタシに出来ることなら、何でも言ってちょうだい」
イヴ 「あのね。ギャリーの道具を貸してほしいんだけど……」
ギャリー「…? アタシの、道具?」
イヴがギャリーにお願いしたこと。
その意味を知ったギャリーは、お茶を済ました後にイヴを家へと招いたのだった。