めいん

□屋上
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“僕ら、もうすぐ卒業だね”

なんて言葉が何故か口からこぼれた。

「んー、そうだねぇ」

みぃんみぃんと蝉が忙しなく鳴いているこの感じが僕は好き。
この蒸し暑いのに、カップラーメンを啜っている君の横顔も好き。

「んまぁ卒業って言っても、まだ6ヶ月はこの学校にいるんだけどね」

「たった6ヶ月だよ」

「‥まー、そうとも言う。何、いっちょ前に寂しい〜って?」

「うん、そりゃね」

君が拍子抜けした顔をしたもんだから、ついふはっと笑ってしまった。

「何?僕が素直になったのがそんなに珍しい?」

「‥珍しいっちゃ珍しい。うん、気持ち悪い」

笑われたことが気に障ったのか、君は少しぶすくれて麺を啜った。

「失礼だなぁ。だってもうすぐ君ともばいばいだしね。少しくらい素直になってあげないと」

「はぁ?意味わかんない」

「わかんなくていいよ」

「‥まぁいいけど」

君のその訝しげな表情が好き。
だからまた困らせてみたくなってしまう。
少し困らせてみようかなぁと考えていた時、君が切り出した。

「あんたはどうするの?進路」

「‥え、」

不意打ち、だ
僕は言葉がうまく紡げなくて。

「だーかーらっ、進路!も
ちろん決まってるんでしょ?もう8月だし」

君はいつの間にかカップラーメンを食べ終わっていて、手で顔を扇ぎながら僕の顔を見ていた。

「‥そうだね、僕は」

‥君の困った顔が見たくて
僕は少し意地悪に笑った。


「僕は、空になりたい」


すると君は、今日2回目の表情をして
「はあ?馬鹿じゃないの」と言って。

「‥笑えない」

言って くれなくて。

「‥今のは笑うところなのに」

「笑えない、ばっかじゃない?ほんとに‥」

「どうやら僕と君は笑いのツボがずれてるっぽいね」

「今更でしょ?何年一緒にいると思ってんの」

「‥そうだね」

このゆるゆるとした雰囲気が好き。

君の顎先から雫がたれた。
「あっつい‥」
なんて言って拭う。

その怠そうな仕草も好き。

もう一粒、雫がたれて
アスファルトに落ちた。
その雫さえも愛おしいと思う。
その雫も、全部君だから。

じりじりと蒸発していくそれを、
ゆっくり目に焼き付けた。
消えていくんだ、跡形もなく。


「僕は、空になるよ」


君は口を開こうとしたけど、
唇を噛み締めて本心を飲み込んだことには知らない振りをして。


「残り6ヶ月、よろしくね」


地悪に 笑ってみせた。
 

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