過去拍手文

□ファンクラブ
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「はぁ!?総司のファンクラブぅ!!?」

茜色の夕日が西の空に沈みかけた頃、とある学園の剣道部室からけたたましい声がこだました。

「平助、声のトーンを落とせ、騒々しいぞ。」

「だってはじめくん、これが驚かずにいられるかっつ〜の!」

「あ〜はいはい、平助うるさい。はじめくんも湯飲みでお茶すすりながら言わないの。ここ学校だからね。」

「聞き捨てならんな、お茶の何が悪いのだ。」

「も〜はじめくんはちょっと黙っててよ!で、どうなんだよ総司、ファンクラブができたって本当なのかよ?」

「本当だよ、女の子たちが僕に直接許可取りに来たし。」

「マジで!?分っかんねぇ、俺には分かんねぇよ、何で総司なんだ…!?」

ああぁ!!と平助は頭を抱えて天井を仰ぐ。

「え〜?顔と身体と性格?お子ちゃまな平助には分からなくていいから。」

「俺にも分からんが…?あんたの方が余程子供っぽいだろう。」

そう言うとずずっと音を立てて、はじめは熱いお茶を眉一つ動かさずにすすった。

「……だから、お茶すすりながら言うのやめてよね、何か微妙に傷付くから。」

「はじめくんが言うと妙に説得力あるのな…。」

「何を言う。お前が俺の一言で傷付くはずなかろう。」

そりゃそうだ!と平助が手を叩いて笑い、酷いよね二人とも、と総司が若干むくれたとき、

「あれ、皆さんまだ帰ってなかったんですか?」

と、剣道部のマネージャーである千鶴が部室に入って来た。

「あ、千鶴ちゃんお帰り〜!」

一瞬にして笑顔になった総司が、すかさず千鶴の背後に回り、後ろから抱き付いた。

「きゃっ!ちょ、ちょっと沖田先輩いきなり抱き付かないで下さい!」

「何やってんだよ総司!千鶴から離れろって!」

「そうだぞ総司、千鶴は嫌がっているではないか。それに学校内での過度なスキンシップは厳禁だ。」

「あはは、嫌だよ。大体千鶴ちゃんのこれは照れてるだけだから。」

「ちちち違います…!」

「あ〜らら、真っ赤になっちゃって可愛い〜。」

「もう…!離してくださ〜い!!」

その過度なスキンシップから逃れようとじたばたもがく千鶴と、何とか総司を引き離そうとする平助とはじめ。

しかし総司はいたずらっぽい笑みを浮かべながら、小柄な千鶴を半分抱え上げるとそれをひらひらとかわす。

「いい加減にしろ総司、そういうところが子供っぽいというのだお前は…!」

「え〜そう?でもそこが僕の魅力のひとつでしょ?」

「くっ…、お前と言う奴はどこまで思考が前向きなのだ…!」

「そうだそうだ!たまには落ち込め!」

「あっ、そうだ千鶴ちゃん、女の子たちが僕のファンクラブ作ってくれたんだけどね、千鶴ちゃん会員番号1番だから。」

「ダメだはじめくん、まったく聞いてないよこの人。」

「今に始まったことではないが…、あのままでは千鶴が不憫でならん。」

盛大な溜息を吐く二人に対し、総司はまったく気にも留めずにこにこと微笑みながら千鶴の頭に頬ずりをする。

「う〜、近過ぎます沖田先輩!…って、えっ、ファンクラブって?会員番号1番って何なのですか!?」

「だから、僕のファンクラブ。ほら、僕って人気者だから。で、千鶴ちゃんが会長ね。」

後ろから抱き締めたまま、千鶴の顔を満面の笑みを携えて覗き込む総司。

実は千鶴はこの笑顔に弱い。

この過度なスキンシップと性格はいただけないが、総司の整った顔立ちは結構好きだったりする。

それなのにこんなに爽やかな笑顔で微笑みかけられると、思わず頷いてしまいそうになるから恐ろしい。

ちなみに、総司はそんな千鶴の内心はお見通しである。
分かっていてやっているのだから余計にたちが悪い。

「………はっ!何で私が会長なんですか!?遠慮させていただきます〜!」

暫く総司の笑顔に見惚れていた千鶴だが、突如我に返ると小刻みに頭を左右させて拒否の意を示した。

「え〜何で?それが僕から女の子たちに出したファンクラブ開設の条件なんだけど。千鶴ちゃんが引き受けてくれなきゃあの子たちの夢は潰えちゃうんだよ。ちなみに月会費500円は特別免除だから。」

「何故月会費500円…。」

「ん〜?何か会報とか作るらしいよ。本格的だよね〜。」

「そんなことはどうでもいいです!それより、何で勝手にそんな条件出してるんですか!!」

「面白いかなぁと思って。ね、いいでしょ千鶴ちゃん。」

「おもし……っ!もうっ全然良くないです!絶対嫌です、辞退させていただきます!大体沖田先輩は何でそういつもいつも勝手に決めてしまわれるのですか!!」

「…もっと言ってやれ千鶴。」

「千鶴、頑張れ〜!負けるな〜!」

まったくめげない総司に対し、珍しく抵抗する千鶴とそれを応援する平助とはじめ。

総司も千鶴に言われれば少しは堪えるだろう、そんな淡い期待を込めて。

すると総司は急に千鶴をその腕から解放し、うなだれながらその場に座り込んだ。

「ごめん千鶴ちゃん…。僕、僕のファンの子達が君に何かしないか心配で…。それでファンクラブ開設の変わりに君を会長にするっていう条件を出したんだ。そうすれば君が嫌な思いをすることもないだろうと思ったんだけど…、確かに考えなしだったね。」

…………。
沖田先輩が反省している!
素直に謝っている…!!

千鶴は拍子抜けして言葉を失うと同時に同情した。
少し言い過ぎたかな、と。

「沖田先輩…。そんな、私の方こそ言い過ぎてしまいました。そこまで考えていらっしゃるとは思ってなくてその…。」

「じゃあ引き受けてくれるの!?」

千鶴が手を伸ばすと総司はその腕を掴み、潤んだ瞳で千鶴を見上げた。

ちなみに千鶴はこの表情にも弱い。
この無駄に色気のある顔が悲哀に満ちていると、思わずきゅんとしてしまう。

「うっ、それはその…えっと…、ま、前向きに検討させていただきます!」

「ホント!?やったぁ、千鶴ちゃんありがとう!!じゃあ特別に僕の部屋フリーパス券付けてあげるからね!」

そう言うと、総司は座ったまま千鶴を引き寄せて再び抱き締めた。

「いりません!って、きゃあっ!おおお沖田先輩!離してください〜!!」

真っ赤に染まる千鶴のりんごのような顔。

そんな千鶴を見て、平助とはじめは心の中で再びあ〜あ、と盛大な溜息を吐いたのだった。



千鶴、お前また総司に言いくるめられてるぞ…!
大体総司が一言「千鶴に手を出すな」とけん制すれば済む話ではないか。
最初の「面白そうだから」が総司の本音だと思うが、最早何を言っても無駄だろう。


頑張れ千鶴…!俺たちずっと応援してる!!
てか総司部屋フリーパスは全力で阻止するけどね、はじめくん!


無論だ…!



その後、学園内に於いて沖田総司ファンクラブは無事設立したが、その会長が誰であったかは不明である。


2011/08/13


皆様の入会お待ちしております(笑)




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