月ノ雫

□Dream Knight
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 十六の歳を迎えた日から、夢に見る。みんなが憧れる、三年の桜木雪(さくらぎゆき)先輩が、私と一緒に過ごす夢。でもどこかおかしい。私は綺麗なドレスを着ていて、先輩は中世ヨーロッパの騎士のような格好で、腰に剣を帯びている。変なの……どうして私達、こんな服装なの? それ以前に、私は雪先輩とは、知り合いでも何でもない。彼に憧れる、遠巻きに見つめる女の子の中の一人なのに――。




 朝、先輩の夢を見れたことが、どんな内容であろうと嬉しく感じる。夢の中でも、私は彼を遠くから見つめているだけだけれど。
 トーストを食べ、制服に着替えて外へ出る。学校は自転車で十五分かかるかかからないかの距離だ。駐輪場に自転車を起き、校門前に女の子が集まる輪に入る。ここは、雪先輩を見るための場所。
「雪先輩来た!」
 女子生徒達が色めき立つ。黄色い声が飛び交う中、私はほんのちょっとの隙間から、憧れの人を見つめる。太陽の光を浴びて煌めくミルクティー色の髪、睫毛の長い切れ長の瞳、すっと通った鼻筋に、薄い唇。そんじょそこらのアイドルグループになんか負けない美貌の、雪先輩をぽーっと眺めた。
 一瞬、時が止まった。私と先輩の目が合って、先輩は目を逸らさない。自惚れとかじゃなくて、雪先輩は、こんな隙間から覗いてる私を見つめていた。
 胸が高鳴る。刹那的なのか、数分なのか、時間の感覚が狂ってしまったかのよう。
 何だか、切なくて、悲しくて、愛おしくて……複雑な感情が私を支配した。先輩は憧れだけれど、愛おしく思うなんて、どうしてだろう。好き、それは自分でも分かる。けれど愛は、思いが通じ合って芽生えるものじゃないの? 分からない――。そんなことを考えながら、先輩と見つめ合った。なんて、自意識過剰かもしれない。私を見てると直感したけれど、考えてみればこの人数だ。誰を見ているのか定かではないのに。でも、私は彼の視線に射ぬかれたように、動けなかった。
 どれくらい時間が経っただろう。ふいに先輩は前を見据えて、学校内へと消えていく。それを追う女の子達にいつもは続くのだけれど、今日は、何故だか胸が締め付けるように痛くて、暫くその場に佇んでいた。


 
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